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花火師の親父
第九章

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「そういったのを食いながらね」
「とびきりの酒をだね」
「思いきりご馳走しようかな」
「そうだね、じゃあたしもね」
「市さんが長屋に返ってきたらね」
「小言の後でだね」
「宿六の好きな寿司でも食わせに行ってやるよ」
 そうするというのだ。
「吉さんに負けてられないからね」
「恋女房だねえ、相変わらず」
「恋女房じゃないさ、喧嘩女房だよ」
 お玉自身が言うにはだ。
「その喧嘩女房もそれ位してやるさ」
「そうかい、じゃあな」
「お里の祝言の用意もしないとね」
 笑ったまま言うのだった、そして実際にだった。
 お玉は市兵衛が長屋の部屋に帰ると小言を言った、しかしその後で寿司を食いに連れて行った。そうして二人で寿司を食いつつ言うのだった。
「お里のこと有り難うね」
「へっ、何でもねえさ」
 市兵衛はハマチの握りを食いつつお玉に返した、屋台で立ったまま食いつつ。
「というか手前さっきそのことで怒っただろ」
「それでも言うよ」
「そうかい」
「ああ、お里も喜んでたよ」
「俺の好きな様にしただけだ」
「だからいいのかい」
「ああ、じゃあ寿司食うぞ」
 こう言ってハマチの次はヒラメを食う。
「折角だからな」
「わかったよ、じゃあね」
「言う暇あったら手を動かすもんだ」
 こう言って今はその手を寿司を食う為に動かすのだった、実際にこれ以上は何も言わずだ。市兵衛は手を動かしていた。何処か暖かい目で。


花火師の親父   完


               2017・4・16
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