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花火師の親父
第四章

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「それでかい」
「そうだ」
 これが市兵衛の返事だった、花火を作る手は止まらない。
「このままな」
「そうなのかい」
「ああ、それで仕事の話だけれどな」
「今度の両国での花火かい?」
「今作ってるからな」
 そこで打ち上げる花火をというのだ。
「ちょっと待ってな」
「ああ、じゃあな」
「それとだ」
 市兵衛は今度はこう吉兵衛に言った。
「お里と亭主になるあのひょろ長いのに伝えろ」
「簪職人の政太郎さんにかい」
「政太郎とかいったか」
「娘の亭主になる相手の名前覚えてやれよ」
「今覚えたさ」
 不愛想で素っ気ない言葉でえの返事だった。
「それはな」
「そうかい」
「ああ、それでその政太郎とかも、あとかかあもな」
 自分の女房もというのだ。
「言っておきな」
「両国の花火にか」
「ああ、そう言っておきな」
「自分で言えばいいんじゃないかい?」
「御前さんから言ってくれ」
 こう言うばかりだった、不愛想な顔で。
「そうしてくれ」
「そうかい、じゃあな」
「ああ、出来たらな」
 その両国で打ち上げる花火がというのだ。
「渡すからな」
「その時また来るな」
「そうしな、特に最後に作る花火はな」
 それはというと。
「最後の最後に打ち上げてくれ」
「それじゃあな」
「ああ、またな」
 こう言ってだ、そしてだった。
 市兵衛は花火を作ってそれを全て吉兵衛に渡した。しかし。
 吉兵衛は市兵衛の女房のお玉にその話を伝えた時にだ、難しい顔になってそのうえで言った。
「どうも今回は特にね」
「うちの宿六気難しいっていうんだね」
「そうだよ、それでお里ちゃんと政太郎さんもね」
「両国にだね」
「来いって言ってるんだろ」
「やれやれ、自分で言えばいいのにね」
 お玉もこう言う、いささか貫禄がある切れ長の目の顔で。その顔は何処か太めの狐の様に見える。
「何でそうしないのかね」
「さてね、俺にもわからないよ」
「とにかく気難しいけれどね」
「今回はだね」
「特にだね」
 また言うのだった。
「気難しいね」
「全くだよ、しかしね」
「ああ、お里ちゃん達にはでね」
「あたしから伝えておくよ」
 お玉はこのことを約束した。
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