第四章
[8]前話 [2]次話
「それでかい」
「そうだ」
これが市兵衛の返事だった、花火を作る手は止まらない。
「このままな」
「そうなのかい」
「ああ、それで仕事の話だけれどな」
「今度の両国での花火かい?」
「今作ってるからな」
そこで打ち上げる花火をというのだ。
「ちょっと待ってな」
「ああ、じゃあな」
「それとだ」
市兵衛は今度はこう吉兵衛に言った。
「お里と亭主になるあのひょろ長いのに伝えろ」
「簪職人の政太郎さんにかい」
「政太郎とかいったか」
「娘の亭主になる相手の名前覚えてやれよ」
「今覚えたさ」
不愛想で素っ気ない言葉でえの返事だった。
「それはな」
「そうかい」
「ああ、それでその政太郎とかも、あとかかあもな」
自分の女房もというのだ。
「言っておきな」
「両国の花火にか」
「ああ、そう言っておきな」
「自分で言えばいいんじゃないかい?」
「御前さんから言ってくれ」
こう言うばかりだった、不愛想な顔で。
「そうしてくれ」
「そうかい、じゃあな」
「ああ、出来たらな」
その両国で打ち上げる花火がというのだ。
「渡すからな」
「その時また来るな」
「そうしな、特に最後に作る花火はな」
それはというと。
「最後の最後に打ち上げてくれ」
「それじゃあな」
「ああ、またな」
こう言ってだ、そしてだった。
市兵衛は花火を作ってそれを全て吉兵衛に渡した。しかし。
吉兵衛は市兵衛の女房のお玉にその話を伝えた時にだ、難しい顔になってそのうえで言った。
「どうも今回は特にね」
「うちの宿六気難しいっていうんだね」
「そうだよ、それでお里ちゃんと政太郎さんもね」
「両国にだね」
「来いって言ってるんだろ」
「やれやれ、自分で言えばいいのにね」
お玉もこう言う、いささか貫禄がある切れ長の目の顔で。その顔は何処か太めの狐の様に見える。
「何でそうしないのかね」
「さてね、俺にもわからないよ」
「とにかく気難しいけれどね」
「今回はだね」
「特にだね」
また言うのだった。
「気難しいね」
「全くだよ、しかしね」
「ああ、お里ちゃん達にはでね」
「あたしから伝えておくよ」
お玉はこのことを約束した。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ