第三章
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「本当にな」
「ったく、手塩にかけて育てたってのにな」
市兵衛はまた苦々しい顔で言った。
「嫁に出るか」
「いやいや、女の子なら当然だろ」
「嫁ぐことはか」
「そうだよ、男なら嫁を取ってな」
そしてというのだ。
「女の子なら嫁に行く」
「それが当然か」
「そうだよ、やっぱりな」
それこそというのだ。
「嫁ぐのが当然だよ」
「だから俺もか」
「まあそんなに苦い顔をせずにな」
「嫁ぐのを祝ってやれか」
「笑顔でな」
「へっ、俺は元々笑うタチじゃねえんだ」
市兵衛は吉兵衛の笑っての言葉に怒った顔で返した。
「いつも怒って喚いてな」
「仕事の時は無口じゃないかい」
「喋って仕事したら気が散るだろ」
そうなるからというのだ。
「だからだよ」
「やらないのかい」
「ああ、弟子を怒る時はな」
その時はというのだ。
「一発拳骨かおい、だ」
「頭に拳骨だね」
「それだ、とにかくな」
「仕事の時は喋らないよな」
「そうだよ、とにかくな」
仕事の時は無口だというのだ。
「俺はそうなんだよ、しかしな」
「お里ちゃんのことはかい」
「ああ、祝ってはやるさ」
「じゃあどうして祝うんだい?」
「さてな」
その話になるとだ、市兵衛は今気付いたというかどうにもとだ。苦虫を?み潰した顔で言葉を返した。
「今から考えておくさ」
「祝言の贈りものかい?」
「そこも考えてるんだよ」
「じゃあいい贈りものしないとな」
「ない知恵絞って考えろってか」
「何なら知恵出そうかい?」
「俺がやる」
そこは頑固な市兵衛らしくこう返した。
「だから御前さんは待ってろ」
「その贈りものの話を聞くのをかい」
「そうだ、本当にない知恵を出してな」
そうしてというのだ。
「やってやるさ」
「そうかい、じゃあ楽しみに待ってるからな」
吉兵衛は市兵衛に笑って応えた、だが。
祝言の時は近付いていたが市兵衛は一向に動かない、贈りものを買ったという話はおろかだ。
仕事場に篭りきりだ、それでだった。
吉兵衛はその仕事場に来てだ、弟子達にあれこれ教えながら自分の仕事は無口でしている市兵衛に聞いた。
「なあ市さんいいかい?」
「何でい」
「お里ちゃんの祝言だがな」
「それは待ってろ」
「待てってのかい」
「そうだ」
「楽しみにかい」
吉兵衛は自分のその言葉を振り返って聞き返した。
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