第三章
[8]前話
何とか医師を連れて来た、ここで医師はようやく野枝を診察した。そしてその結果こう言ったのだった。
「駄目です」
「駄目とは」
「まさか」
「はい、手遅れです」
こう言うのだった。
「最早」
「だから言っていたんですよ」
「診察して下さいって」
「それをどうしてですか」
「どうして診察してくれなかったんですか」
「とはいいましても既に癌ということになっていましたので」
示し合わせた演技、それだとこの医師はおろか病院全体が思っていたのだ。それでついついだったのである。
「ですから」
「そんな、では」
「もう先生は治らないんですか」
「癌は」
「手遅れですか」
「むしろ入院前にかなり進行していたと思います」
医師は癌の進行状況を診たうえで答えた。
「最初から癌の診察を受けていれば」
「若しそうだったら」
「その時は」
「間に合ったと思います」
医師は職業倫理から残念に思い野枝の仲間達に答えた。
野枝は手遅れの癌に責め苛まれ死の直前まで死にたくない助かりたりと言いつつ死んだ、その死はすぐに世に伝わった。多くの者はまさか野枝が本当に癌で死ぬとは思っていなかった。だが野枝は実際に死に多くの者がこのことを話した。
「最初から癌だったのか?」
「いや、最初は逃げる為に入ったんだろ」
逮捕からというのだ。
「それが癌になったとかか?」
「それか入院した時はもう癌だったんじゃないのか?」
「癌だったことに気付かないまま癌として入院したんじゃないのか?」
「そのうえで死んだのか?癌で」
「そうなったか?」
中にはまさにその通りだという言葉もあったが彼等は真相は知らなかった、だが多くの者は野枝の死をこれは自業自得だと考えた。己の悪行から逃れる為に病院に逃れたがその病院でそれを理由として入った病で死んだ。それはもはや天罰だと思ったのだった。真実は知らないのだが。
仮病 完
2017・3・13
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