第一章
[2]次話
汚い飯屋
高橋真一郎は先輩の名倉俊彦に午前の仕事が終わった時に不意にこんなことを言われた。
「今日何食うか決めたか?」
「いえ、別に」
高橋は面長で丸い目を持つその顔で名倉のいささか額は広いが太くしっかりした眉を涼し気な口元の端正な面持ちを観つつ答えた。背は高橋が一七八程で名倉は一七五位だ。名倉の方が二期先輩で会社ではよく一緒に働いている。その縁で名倉も今高橋に対して声をかけたのだ。
「決まってないです」
「じゃあいい店紹介しようか」
「いい店ですか」
「安くて美味くてしかも早い」
「吉野家ですね」
その三拍子にだ、高橋は自分の席に座ったまま横に立っている高橋に言った。
「それって」
「ははは、そうだよな」
「ってことは」
「ああ、しかもな」
「しかも?」
「量も多いからな」
吉野家の様に三拍子だけでなく、というのだ。
「いい店だぜ、そこはどうだ?」
「はい、お話を聞いたらよさそうですね」
「御前最近昼よくコンビニ弁当とかカップ麺だろ」
「安いしすぐに食えますし」
「あまりそういうのばかりだとよくないしな」
栄養学的な話もだ、名倉は高橋にした。
「だから理想は愛妻弁当だけれどな」
「彼女もいないです」
「俺もだよ、だったらな」
名倉は高橋に笑ってさらに言った。
「そうしたのも時間がないと仕方ないけれどな」
「いつもは食わないで」
「そうした店で食うのもいいものだ」
「それで、ですか」
「今から行くか」
そのお勧めの店にというのだ。
「そうするか」
「わかりました、それじゃあ」
高橋は名倉の申し出に頷いた、そして席を立って二人で会社のビルを出てだ。オフィス街の中の中を歩いた。大阪の昼のオフィス街は今日も賑やかだ。
その大坂のオフィス街の中を歩きつつだ、高橋はその店まで自分を案内してくれている名倉に尋ねた。
「それでどんな店ですか?」
「それか」
「はい、一体」
「普通の店だ」
名倉は笑って自分より少し背の高い後輩に答えた。
「本当にな」
「普通ですか」
「別に洒落てもいなくてな」
「ごく普通の」
「そうした店だ」
そうだというのだ。
「それで普通でな」
「味もですか」
「いいんだ」
高橋に笑って話すのだった。
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