第八章
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「そうしてきました」
「このお花が」
「私の返事です」
「キキョウの花言葉は」
伊勢はわかった、花には然程興味はないが大学時代に本で読んだ。
「永遠の愛、誠実、清楚、従順」
「そうです」
「つまり」
「これからも宜しくお願いします」
これが美咲の返事だった。
「私でよかったら」
「有り難う、じゃあ」
「明日お店に弟も連れてきます」
こう言ってだ、美咲はいつもの勤務に入った。伊勢はその彼女をキキョウの花束を受け取ったうえで微笑んで見送った。
そして開店してだ、美咲がいない時間に店に来た長渕に話をすると彼はコーヒーを飲みつつ笑顔で言った。
「よかったな」
「今凄く幸せだよ」
実際にこれ以上はないまでに福々しい顔でだ、伊勢は長渕に答えた。
「生きていてね」
「これまで以上にはだね」
「ない位にね」
そこまでというのだ。
「幸せな気分だよ」
「そうだろうな」
「受けてくれたよ、美咲ちゃん」
その笑顔での言葉だった。
「本当によかったよ」
「それは何より。ただね」
「ただ?」
「こうなるとは思っていたさ」
「美咲ちゃんが僕の告白を受けてくれるとだね」
「いい娘ならね」
彼が言う通りにだ。
「絶対にって思ってたよ」
「人は外見じゃない」
「そう思ってね、ただね」
「ただ?」
「今の暮らしを抜け出したい」
「美咲ちゃんにだね」
「そうした気持ちもあっただろうね」
それもまた事実だろうというのだ。
「やっぱりね」
「その気持ちはあったんだ」
「現にマスターもだろ」
「ああ、そう言うとな」
「家にここでの仕事もだね」
「弟さんの面倒のこともな」
結婚すれば楽になる、言外で言っていたのは確かだ。
「そうだったよ」
「そうした打算があったのはお互い事実だな」
「下種なことかな」
「下種でもないさ、人間何かとな」
「そうしたこともかい」
「考えるものさ」
生活、特に金銭のことをだ。
「だからあんたもあの娘もな」
「それ込みでだね」
「別にいいんだよ」
こう伊勢に言うのだった。
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