第四章
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「それは知っています」
「ムスリムにも法と秩序があるんだ」
「信仰は違いますが。むしろ欧州より遥かに進んでいます」
法や秩序への考え、そして実際にそれが守られていることがというのだ。もっと言えば富や技術も当時はイスラムの方が遥かに上だった。
「だからこそここに来てです」
「それでだな」
「商いをしています」
「そうだよな」
「はい、そうしたことも知っていましたが」
「毒が売っているなんて信じられないよな
「信じられないからこそ探しているのです」
その話が真実はどうかその目で確かめようとしているというのだ。
「実際に、しかし」
「ないよな、そんなものは」
「はい、全く」
「裏の店に行くかい?しかしな」
「裏の方はですね」
「俺も表の商いだし御前さんもだろ」
「はい」
その通りだとだ、ハンスはイブンに答えた。トルコ語はややたどたどしいが喋れているのは確かだ。
「それは」
「だったら行かない方がいいな」
「裏にはですね」
「入らない方がいいぜ」
「身の為ですね」
「裏は独特の世界なんだよ、それこそ下手に入ったらな」
「厄介なことになる」
ハンスは強張った顔で答えた。
「そうなりますね」
「命だって危なるかもな」
「ならず者達の世界だからこそ」
「ああ、だから裏は勧めないな」
表にいる者として、というのだ。
「アッラーもあんたの神様も許さないだろうな」
「そういうことですね」
「そして表にはな」
「そうしたものは売っていない」
「そうだよ、そもそもその毒ってどんなのだい?」
具体的にどんなものかとだ、イブンはハンスにその毒について問うた。
「一体」
「はい、飲むものだとか」
「飲むんだな」
「そうです、そしてインクの様に黒いとか」
「黒い?」
「はい、黒い飲みものと聞いています」
「おい、ひょっとしてな」
黒と聞いてだ、イブンはまさかと思いハンスに言った。
「それはコーヒーかい?」
「コーヒー?」
「そうだよ、あんたここには何度も来てるよな」
「そうですが」
商売でとだ、ハンスはイブンに答えた。
「そうしていますが」
「それでコーヒーを見たことがないのかい」
「水や酒なら」
「そういうものはかい」
「はい」
実はイスラム圏でも酒を飲んでいたりする、トルコは特にそうでありイスランブールでもワインがよく売られている。
「飲んでいますが」
「コーヒーは知らなかったのか」
「それは何ですか?」
「あんたちょっと見ているものが狭いな」
イブンは腕を組んで顔を顰めさせてハンスに言った。
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