第五章 Over World
全部なくなったわけじゃない
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街を歩く少女が一人。
少女は紙袋に入った菓子を一つとり、口にくわえて目の前の家を見上げる。
表札に「美樹」と書かれたその家の前で立ち止まった少女は、佐倉杏子だ。
(・・・・なんであたしはこんなとこ来てんだ)
別段何かあったわけじゃない。
話したいことが頭にあるわけではない。
しかし、何かが頭に引っ掛かるのだ。
何かを伝えなければならない気がするのだ。
「だから・・・・それがなんなんだってんだ・・・・」
少しイラついた顔をしているのはその為か。
イライラを紛らわすために、さらに菓子に手を伸ばす。
(とりあえず顔でも見りゃなんかわかるかもな・・・・)
一人の人間がここまで気になるなんて、杏子本人も驚いている。
自分はこんなにも面倒見のいい性格ではないはずだ。
否
そう言う自分は、昔に否定し、辞めたはずだというのに。
そこまで考え、ふと至った。
(そっか・・・昔のあたしと似てんのか、あのバカ)
誰かを助けるために魔法少女になり。
誰かを救うことに使命感を燃やし、心躍らせていたあの頃。
美樹さやかは、あの頃の自分に似ている。
それが一番いいと思っていたあの頃の自分に。
そんなことはないというのに。
人は誰しも「自分のために」だ。
そうでなければ、自分と他者の思いにズレが生じ、結果どちらも救われない。
病院での戦いの後のあいつの笑顔を見て、なぜかイラつきながら、なぜか危なげに見えたのはそう言うことなのだろう。
ある種の自己嫌悪。
ある種の自己擁護。
昔否定したはずなのに、目の前にあるそれが気に喰わなくて。
でも、もしそれを貫けたなら、それは間違いじゃなかったと思えるのだ。
(なんだそれ・・・・)
否定と希望。
その狭間で、杏子の心が少し揺れる。
バンッッ!!
美樹家の塀に寄りかかって、思考にふける杏子。
するとその向こうから、玄関の扉が勢いよくあけられた音がした。
急にしたものだから、ビクッ!!と肩を震わせて体の固まる杏子。
なんだ?と思いながら、顔を出して玄関の方を見ようとする。
バタン、ダダッッ!!
玄関の閉じる音。
そして、誰かが走ってくる。
美樹さやかが、目の前を駆け抜けて行った。
顔は下を向いており、歯は噛み締め、水滴がポロポロとその後を彩っていく。
「お、おいっ!!」
あまりの勢いに出した頭を引っ込めながらも、咄嗟に声をかける。
しかし見えてないのか聞こえていないのか。
さやかはそのまま走り抜けて行ってしまった。
「チッ、なんだってんだよ!!」
その後を杏子も走り追って
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