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雲は遠くて
129章 下北沢・ビアフェスティバル・2017
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で、よし、おれも、ゲーテと同じくらいに恋愛で(つら)いんだから、
こんな小説くらいなら、おれだって書けるさ!って、
何をカン違いしたのか、小説を書く決心をしたんですよ。
そして、3回ほど書き直して書きあげたのが、
400字原稿用紙約100枚の『雲は遠くて』っていう小説だったんですよ」

「そして、しんちゃん、その小説を、中島みゆきさんに贈ったのよね。
中1の3学期のときに、ニッポン放送気付けにして、中島みゆきさん宛あてに。
その短編小説って、どんな物語だったのかしら?って、つい想像しちゃうの。
でも、しんちゃん、わたしにもその小説を読ませてくれないのよ」

 信也の彼女の大沢詩織は、ちょっと不満げに頬をふくらませる。

「あ、それは、詩織ちゃん、ごめん、ごめん。時期が来たら、
その小説はネットで公開するから、それまで待ってね。あっははは」

「しんちゃん、実は、おれも、ゲーテは大好きで尊敬しているんですよ。
あの人の有名な言葉に、
『女性というものは銀の(さら)だよ。そこへ、われわれ男性が、
金の林檎(りんご)をのせるのさ。』
とか、
『恋愛と知性とは関係ない。私たちが若い女性を愛するのは、
知性のためではなく、美しさ、若々しさ、いじわるさ、人懐(ひとなつ)っこさ、
個性、欠点、気まぐれ、その他一切のあらわしようもないもののためだ。
彼女の知性を愛するのではない。』
とか、
ありますよね。女性のことや人生をよく理解している人の言葉だって、
おれは感心してしまうんですよ。ゲーテは人生の達人ですよね。あっははは」

 そいうって、いつも陽気な幸夫は、上機嫌に笑った。

「それって、ゲーテの集大成の『ファウスト』のラストに出てくる言葉と、
リンクというか共鳴する美しい言葉ですよね。
『永遠にして、女性的なるもの』と、ゲーテはファウストのラストで言っていますけど。
『永遠』を神秘的なもの、『女性的なるもの』を愛と考えて、
つまり、『永遠にして、女性的なるもの』とは、
女性のかたちをとった理想を意味するのであって、
『永遠の女性が、われらを、より高いところへ(みちびき)きゆく』という意味の言葉は、
人類の希望を語って、示唆しているように、おれも思うんですよ。
男は、女性にはかなわないってとこですかね!
男たちが主導の世の中は、いつまでも、こんな(こま)った状態ですからね。
幸夫ちゃん。あっははは」

「そうだよね。女性には、男はかないませんよ、しんちゃん。あっははは」

「ゲーテさんって、18世紀に生きた人なんでしょう。
そのころの人が、そんなに女性を尊重してくれているって、すごいことよね!」

 詩織がそう言った。

「きっと、先見の目のある偉大な人なのよね!
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