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渦巻く滄海 紅き空 【下】
二 怪しい雲行き
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昔と随分変わったとは言え、流石の我愛羅も表情を険しくさせた。足元から、自然現象ではない、己の力である砂が小刻みに震え始める。
フードの陰で、「気に障っただろうな、すまない」と謝罪した相手がふっと口許に苦笑を湛えた。

「ただの、お節介さ」






眼前の光景が揺らめく。あれだけ鮮明だった相手の姿が曖昧になってゆく。
陽炎のように揺らめく我愛羅の視界の向こうで、相手が同じ質問を今一度問うた。

「里に脅威が迫った時、君はどうする?」

止んでいたはずの砂嵐が再び吹き荒れる。
視界に塗れる砂と激しい風の中で、物静かな声と共に澄んだ鈴の音が我愛羅の耳朶を震わせた。

「それが答えだよ、我愛羅」










激しく吹き荒れる砂嵐は止むことがない。
乾燥し切った空気を裂くように旋回する禿鷹の鳴き声が響く。里に聳える建物を砂が叩いてゆく。
そんな、いつもの環境音が我愛羅を我に返らせた。


眼を瞬かせて周囲に視線を走らせても見渡しても、寸前まで会話していた相手の姿など何処にも無い。手摺の辺りを注意深く見たところで、そこに誰かが腰掛けていた様子など微塵も無く、ましてや砂が積もっていた。

呆然と佇む我愛羅の背後で、己を呼ぶ声がする。
「風影様…そろそろ会議です」


跪いて伝えるバキに、我愛羅は一瞬、此処にいたのは自分だけだっただろうか、と問おうとした。
だが、途中で思い直し、「わかった」と一言返す。


今のが白昼夢だった可能性も無きにしも非ずだったが、それでも幻や空想という一語で終わらせるにはあまりにも鮮明過ぎた。


バキに促され、会議に出ようとした我愛羅は、不意に足を止めた。肩越しに振り返って、里向こうを見やる我愛羅を、バキが訝しげに呼ぶ。

再び、風影の羽織を翻し、里から眼を離した我愛羅は、これから迫り来る脅威に未だ気づいてはいなかった。しかしながら、心の何処かで警戒心が頭をもたげる。
耳に強く残る正体不明の存在の助言らしき言葉は予感めいていて、我愛羅の胸を砂嵐のように騒がせた。








砂隠れの里向こう、砂嵐に雑じって、鈴の音がした気がした。
それは、白フードから聞こえた音と同じく美妙だったが、不吉な音色とも言えた。





里と、そして我愛羅自身に迫る脅威の前兆の音だった。

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