二 怪しい雲行き
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ついて、我愛羅は一瞬眼を伏せた。
視界は砂で埋め尽くされ、止むことの無い砂嵐が彼の視線の先に常にある。
またもや、一陣の砂嵐が吹いて、眼に刺さる砂粒に、双眸が反射的に閉ざされる。
そうして眼を開けた瞬間、視線の先の光景が若干変わっていた。
「風影になったんだね。おめでとう、我愛羅」
「……誰だ?」
砂嵐に塗れた光景の中、その存在だけがやけに鮮明に映る。
激しく吹きつける砂向こうで、眼の前の人間は妙に白々と陽光の下で輝いていた。
フードの陰に隠れて顔は全くわからない。隙も気配も窺えない。
けれども、里に住まう人間ではないことは確かだった。
風影である自分に微塵も悟られず、ここまで接近してきたのだ。砂隠れの里に現在そこまでの忍びはいないと、自惚れではなく事実を知る我愛羅は当然の如く警戒した。
反面、突如現れた存在は、身構える素振りすらなく、悠然と手摺に腰掛けている。
激しく吹き荒れる砂嵐の中だというのに、顔を隠し続けるフードの白色が妙に眼に焼き付いた。
いっそ懐かしい感じすらして、我愛羅は眼を眇め、再度問い質す。
「――何者だ?」
我愛羅の再三の詰問にも、相手は答える気が無いのか、穏やかな物腰のまま黙している。そこで動揺を誘おうと、試しにほんの僅かに殺気を放つと、相手が微かに微笑んだ気配がした。
「以前のお前なら、出会った瞬間に殺気を出していた…――成長したな」
まるで昔からの知り合いのような口振りに、我愛羅のほうが動揺する。改めて何者か問うがやはり無言を貫く相手に、我愛羅は質問を変えた。
「俺に何の用だ」
「助言をしに来ただけだよ、我愛羅」
そこでようやく、相手は応えた。
何の感情も窺えない淡々とした物言いは事務的なようでいて、それでもどこか暖かみのある声音でもあった。
「風影になるのには相当努力したのだろう。それでも里長として認めてくれぬ人間もいる。人心を掴むには、我愛羅。身をもって立証するしか無いんだよ」
「…なにを、言って…」
今正に自分が悩んでいる事柄を的確に指摘され、我愛羅の足が自然と後ずさる。
無意識に視線を周囲に走らせるが、まるでこの場だけが世界から切り離されたかのように、誰も此処に近づく気配は無かった。
「里に脅威が迫った時、君はどうする?」
突然、何の脈絡もなく問われる。
今まで散々質問してきた己に逆に問うた相手は、物静かに言葉を続けた。
「影を背負う器になったからには、それ相応の覚悟も必要だ。同時に、己の命も大切にしなければならない。そして、君が現在風影になっているという事は、君を里長と認める人間もいるという事だ。それを忘れてはならない」
「…見ず知らずの人間が説教か?」
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