第一章 天下統一編
第二十話 宴会1
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時期から逆算して調度いい時期なのだ。深酒で奇襲の当日に兵が使い物にならないでは洒落にならない。だが、兵達に息抜きを与える必要がある。明日、酔いつぶれても一日の余裕がある。
家臣達が酒盛りで憂さ晴らしてくれるなら何も言うことはない。
「総大将、織田右大臣、は罷免された。右大臣は二三日の打ちに韮山城を去る。それを余所に俺は酒盛りをはじめる。人はどう思うであろう。俺を愚か者と思うであろう」
「そう思う者達もいるでしょう。ですが、そう思わない者達の方が多いように思います」
「どういう意味だ?」
俺は藤林正保の口振りが気になり彼の真意が気になった。
「殿は城攻めに参加している武将達が観ている前で『三日で大手門と江川砦を落とす』と豪語されたではありませんか? その上、殿は城を三十日で落とせなければ腹を切るとまで明言されました。普通の者なら気が触れてしまいます。楽しげに酒を楽しんでいる殿を見れば剛毅な人物と思い、何か思惑があると勘ぐる者も出てくるかもしれません」
「だが、俺が城攻めの失敗を恐れ、酒に逃げ気を紛らわしていると思う者もいるはずだ。長門守の考えは俺の考えを十分に理解しているからだと思うぞ」
俺はあっけらかんと藤林正保に言った。
「そうでしょうな。殿はご立派にございます。家臣達の前で弱音は吐かれることはない。しかし、弱音を吐くことは必要です。私達に吐けないならば、吐ける者を側に置かれることです」
曽根昌世は俺の物言いに合いの手を入れ笑顔で答えた。彼には俺の心の内を見抜かれていたようだ。まだまだ精進が足りないな。曽根昌世の言い分も一理ある。秀吉にとって何でも話せる相手は彼の弟、秀長、だろう。その秀長も北条征伐が終わってしばらくすれば死んでしまう。
弱音を吐ける相手がいない。それは孤高の存在である天下人にとっては辛いことだろう。
「殿、そう心配されずとも大丈夫です。殿の隙はございません。私はただ殿の御年で有れば弱音を吐いて当たり前と思っただけのこと。私もこの年になっても弱音を吐くことはありますぞ」
曽根昌世は俺に諭すよう言った。
「内匠助、肝に銘じておく。酒盛りの件は頼んだぞ。兵達全員に伝えておいて欲しい」
「与力の方々はどうされますか?」
「一応、声をかけておいてくれ。声をかけておかないと後で根に持たれても困る」
内匠助は「かしこまりました」と返事し、その後部屋から去っていった。
「いよいよですな」
「本当にそうですね。殿の猫かぶりに付き合うのも疲れました」
藤林正保と岩室坊勢祐は生き生きとした表情だった。
「ようやくだ。勝利の前祝いだ。明日は存分に飲んでくれ。私も兵士達と距離を縮めるよい機会だと考えている」
「確かによい機会でしょう。殿へ一物抱いている者
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