1-11/2(木):朝
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11月2日。木曜日。阿月高校の2Dでは風の音と共に、転校生がきていた。
「名前は内ノ宮風斗。特技は…あまりないです!みなさん、よろしくお願いします」
その口から淡々とリズムよく出る言の葉は、まるで友好関係を誘うようであった。
そうなのか、一段と大きい拍手と、小鳥のさえずりが聴こえる。
これでまた自分の存在感が薄くなるとなんだか胸に突き刺さるようだ。
「じゃあ…あそこ。窓際の3番目の机に座ってくれ。新しい教科書はまだなんだろう?隣の祐也と机をくっつけて見せてもらいなさい。これでHRは終了だ。一時限目の準備をしろー」
そう言われた途端、口角が吊り下がる。折角の空席だったのに。こんな冴えない奴と隣になったら即、嫌な顔をしてシカトするはずだ。ブルーな気持ちが更にブルーになる。
と、その時。近くで俺の名前を呼ぶ声がした。
「あんたが杉下さんかい?僕は内ノ宮。これからよろしく」
ニカッと風斗が笑うと、握手しようと手を差し伸べた。
嘘だろ。構ってもらえて嬉しいのか、慰めみたいな言葉で逆に悲しいのかよくわからない。
色々な気持ちが混合したような気分だ。
「え…あ…よろしくお願いします」
思わず敬語が出てしまう。こんなハイなレベルの人に挨拶されれば誰だってそうだろう。
風斗がゆっくり手を離すと、「教科書、見せてくれないかな?」と言ってきた。
こんな優しい言葉で接してくるのは友達の蒼甫ぐらいだ。優しすぎてこれはいじめの宣告なんだろうかと、意味がわからない妄想をし始めた。
さりげなく、そっと数学の教科書を置く。
【高校2年生 数学】と表紙に大きく描かれた教科書には、所々多少の破れや、付箋が貼ってあった。
「おっ、ありがと。今度ジュース奢るよ」
もうここまで丁寧に扱われて、敵がい心も少し燃えた。
とりあえず「ありがと」と言ってみると、相手は二ヒヒと笑った。
ふと周りに耳を貸すと、やっぱり風斗のことで話題は持ちきり。中には俺と風斗を比べるようなことも聞こえた。
あーっ、すいませんね。ボンクラで。キモくて毎度すいませんでしたっ!
どこかのやんちゃな小学生みたいに心内でそっと文句を言う。
だるい一時限目を告げる校舎のベルが騒がしく響くと日直が早めな口調で「起立、礼、着席」と言うといつものように、数学が始まった。宿題回収も同時に始まると、大きなため息を一つついた。
頬杖をつきながら気怠く教師の話を聴いていた。
【1-11/2(木) 終】
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