巻ノ九十七 金の極意その六
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「漢の高祖は残念な方じゃ」
「国を建てられた方ですが」
「それでもですか」
「そうじゃ、皇帝になってからはな」
それからの高祖、つまり劉邦はというのだ。
「それまでの大器が消え実に疑いの心が強い」
「そうした御仁になりましたか」
「あの御仁は」
「そうなった」
史記を読めば実際にというのだ。
「そして功臣達を粛清していった」
「確か韓信、黥布、彭越と」
「次々にでしたな」
「高祖は功臣達を殺していますな」
「そうしていましたな」
「あらためてそれを読んだが」
史記のそのところをというのだ。
「酷いものだ」
「用がなくなれば始末する」
「そうしたことはですな」
「決してしてはなりませんな」
「主君ならば」
「そう思う」
実際にとだ、幸村は十勇士達に厳しい顔で答えた。
「ことが為すまでは頼りにしてことが済めば始末するのではじゃ」
「人として間違っている」
「そうなりますな」
「どうしても」
「そうじゃ、越王勾践もそうしたことはあったがな」
呉と争い続け遂に滅ぼした王だ、長江流域の方にあった国である。
「高祖は特にであった」
「皇帝になってからは猜疑心が強く」
「そして功臣達を殺してですな」
「残った者達にも強い疑いを持っていた」
「それも強く」
「そうであった、だからな」
それでというのだ。
「拙者はそうした人間にはなりたくない」
「皇帝になってからの高祖の様には」
「何があろうとも」
「そう思う、太閤様もそうしたところはあったか」
秀吉、彼もというのだ。
「何処かな」
「言われてみればそうですな」
「関白様を切腹させましたし」
「利休殿もそうでしたし」
「それを見ますと」
「そう思うと残念じゃ」
秀吉が劉邦の様になったことはというのだ。
「ああしてよきところを失われてな」
「変わられるのはですな」
「天下人になられて」
「そうなられたなら」
「そう思う、しかしな」
幸村は無念に思う顔のまま述べた。
「大御所殿は違うな」
「あの方はですか」
「高祖や太閤様とは違う」
「そうなのですか」
「うむ」
そうだというのだ。
「拙者が見るにな」
「そういえば誰も粛清しておりませぬな」
「特にこれといって」
「幕府はまとまっていますな」
「これまで通り」
「大御所殿は慎重であるが疑い深い方ではない」
幸村は家康について述べた。
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