巻ノ九十六 雑賀孫市その十五
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片桐は豊臣家を必死に守ろうと動いていた、彼はもう天下人が誰かということがわかっていた。しかし。
それを聞いてもだ、茶々はあくまで言うのだった。
「右府殿はわからぬ」
「全くですな」
「何かと言われますが」
傍にいる女達が茶々に応えて言う。
「例え奥方様の祖父殿はいえです」
「幕府を開かれましたが」
「あくまで臣下」
「お拾様の外祖父といえどもです」
「臣下に過ぎません」
茶々の周りの女達も主と同じ考えであった、それでこう言うのだ。
「それで何故あの様に言われるのか」
「全く以て不遜な」
「茶々様を奥にと言われたり」
「江戸に来られよと言われたり」
「何でも大坂からの城替えまで考えておられるとか」
「何と不遜な」
「勘弁なりませぬ」
女達は忌々しげに言う、そして。
茶々もだ、彼女達に強い声で言った。
「妾の考えは変わりません」
「大坂から移ることはないですね」
「この城からは決して」
「そうですね」
「そうです、間違っても右府殿の妻にはなりませぬ」
こうも言った。
「何があろうとも」
「そして大坂からも出られませんね」
「決して」
「無論です、天下人はお拾殿です」
我が子秀頼というのだ。
「只でさえ官位で上に立たれるなぞ」
「与えられた帝も帝ですが」
「何と腹立たしい」
「右府殿がそうされるなら」
強い顔でだ、茶々は言った。
「こちらも対するだけです」
「はい、全くです」
「豊臣の力見せてやりましょう」
「真の天下人が誰なのかを」
女達は勇ましい、だが。
彼女達は城の限られた中にいた、そこから言っていた。しかもそのことに全く気付かないまま勇ましいだけであった。大坂はそうしたままであった。
巻ノ九十六 完
2017・2・23
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