巻ノ九十六 雑賀孫市その十三
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「それに対して今の豊臣家は一万五千」
「六十万石なので」
「それ位ですな」
「話になりませぬな」
「最早」
「そうじゃ、兵の数だけ見てもじゃ」
最早というのだ。
「比べ様もないわ」
「ですな、確かに」
「それではです」
「銭で浪人を集められても」
「それでも」
「同じじゃ」
そうだというのだ。
「浪人は確かに集められる」
「はい、豊臣家にある銭ならば」
「太閤様が置いておかれた多くの銀や金があります」
「それで相当に集められますな」
「それが可能ですな」
「うむ、しかしそれで兵を集めてもな」
それでもとだ、片桐は難しい顔で述べるのだった。
「何になるか」
「それは戦ですな」
「幕府相手のそれになりますな」
「兵を集めれば」
「それで」
「戦をしても何にもならぬ」
片桐の言葉は苦いものだった。
「もう抜き差しならぬものになるわ」
「幕府とですな」
「まさに」
「そうなるからじゃ」
だからだというのだ。
「それはよくない、一旦集めた浪人達はそう簡単に放つことも出来ぬ」
「集めた者達をどうするか」
「そのことも厄介ですし」
「兵は集めぬこと」
「最初からですな」
「そうせねばならぬ、もうこのまま生きるしかないのじゃ」
豊臣家はというのだ。
「家だけでも残すべきで幕府もな」
「その様にお考えですな」
「豊臣家を大名として扱ってくれますな」
「これからも」
「それは確かじゃ」
片桐は確信していた、このことは。彼は幕府の政を細かいところまで見ていてこのことをはっきりとわかっていた。
「おそらくこの城から出ることになるがな」
「大坂城からはですか」
「この城からは」
「摂津、河内、和泉からな」
「豊臣家が今治めているこの三国からですか」
「去ることになりますか」
「幕府は大坂が欲しいのじゃ」
この城と摂津、河内、和泉の三国がというのだ。
「それだけじゃ」
「豊臣家を滅ぼしたいのではなく」
「城と三国が欲しい」
「それだけですか」
「うむ、大坂から西国を治め銭も手に入れたいのじゃ」
これが幕府の考えだというのだ。
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