暁 〜小説投稿サイト〜
俺の四畳半が最近安らげない件
栄光なき軍師 〜小さいおじさんシリーズ18
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
アスファルトに陽炎さえ立つ、うだるような暑気に炙られながら俺はふらふらと歩く。
西日が当たるアパートの、錆びた階段は一段踏むごとにカシン、カシンと憂鬱な金属音を刻んだ。手すりに触れると熱い。手に提げたコンビニ袋が膝に当たる。その冷たさだけが救いだ。…くそ、もう少しコンビニが近い物件を探せばよかった。

玄関を開けると、エアコンの風が一番当たるところで伸びていた三人の小さいおじさんが、一斉に身を起こした。
豪勢と白頭巾はともかく、あの行儀のいい端正までが四畳半に寝そべって惰眠を貪っている。ここ最近の猛暑は端正の品位すら剥ぎ取ってしまったのか。
…流石に恥じたのか、端正は軽く居住まいを正して何やら支度を始めた。氷で満たした器の中心に深めの皿を埋め、少し離れて俺がビールを注ぐのを待つ。…もう俺が居ないって設定やめないか。いちいち面倒くさい。
「お…おぉ…甘露が」
派手なアロハに身を包んだ豪勢が、大げさなそぶりでビールの池に飛びついた。そして表面の泡をまどろっこしげに掻き分け、両手でビールを掬って喉を鳴らして飲み始めた。…くそ、身長30センチ未満の世界の、なんと楽し気なことよ。
「いちいち汚いぞ、卿。柄杓を使いたまえ」
ホームセンターで購入した細竹で拵えた小さな柄杓をビールの池に突っ込み、端正も旨そうに喉を鳴らす。…くそ、こっちも楽しそうだ。かし、と地味な音を立ててプルタブを立て、俺もビールを呷った。…あぁ、つまらん。いつも通りだ。
「ふぃー、生き返るわ。おい、貴様はやらんのか」
豪勢が、いまだにクーラー直下で寝そべっている白頭巾を振り返る。
「麦酒は好みません…」
このくそ暑いのに相変わらずの、薄い袷を生八つ橋のごとくぺったりと床に広げ、白頭巾は首だけのそりと動かした。…暑苦しい。お前だけだぞ、いまだに現代社会に適応していないのは。
「あの炭酸というのですか…しゅわしゅわした奴。あれはいけません。口の中が痛いし、腹が張る」
「はん、なぁにが『しゅわしゅわ』だ女子供のようなことを云いやがる。軍師てのはイチイチスケールが小さくていかんなぁ」
豪勢は端正が差し出した柄杓を完全に無視してビールの池にかぶりつく。豪勢にとっては柄杓でちまちま呑むことすら、女子供のような呑み方なのだろう。
「いいかぁ、余の元に集う綺羅星の如き猛将の群れにこんな細っそいちっちゃい柄杓なんぞ渡してみぃ。あっという間にへし折られて、こんな麦酒の水たまり、一瞬にして干上がるからな?」
「あー…もう目に見えるようですね…『ドキッ☆脳筋だらけの爆呑み大会!ポロリもあるよ!』…くっくっく…」
生八つ橋の端っこが震えた。
「卿も少し黙るがいい。何をポロリするのか想像するだに不愉快だ」
厭な想像を振り払うように、端正が軽く首を振った。
「何てくさそうな酒宴でしょうか…
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ