35:大切なもの
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た。
重いそれがなくなり、手の空いたユミルは…………俺とユニコーンの間に、その身を飛び込ませていた。
彼はユニコーンに、覆いかぶさるように――
その直後、
「……くあぁっ!?」
という苦悶の声をあげ、俺の《バーチカル》をその背に受けた。そしてユニコーンを抱きかかえる形で吹き飛ぶ。それからゴロゴロと転がり、ようやく止まったその傍に、空に放り投げていた大鎌がドスッと地に突き刺さった。
バックアタックによるクリティカルヒットで、思いの外HPを3割も削られたユミルは……
「ハァッ……ハァッ……!!」
足を崩したまま倒れた上体を起こし、震える右手で傍の大鎌を握り、片手で一息に引き抜くと同時に俺を見上げて構える。
……そのあまりに頼りない、小さく華奢な背に、小さな仔馬を庇って。
そして……ミストユニコーンはその背に、全幅の信頼を寄せて、付き添っていた。
彼の荒い息。震える瞳。開ききった瞳孔で俺を見るそれは……あたかも、天敵を目の前にして、我が子を身を呈して必死に守ろうとする親猫のようで――
――ガチリ。
俺の頭の中でなにかが……全てが、荒く一斉に繋がる音が鳴った。
ユミルの、ユニコーンに対する異常なまでの執着。
ユミルの、ピナに対する特別な態度。
ユミルの、かつてのユニコーン討伐者達へ向けた、激しい憎悪の表情。
ユミルの、犯行の動機。
――そして、ユミルの言っていた……この世界で唯一信じれる『大切なもの』。
「…………そうか……そういうっ、ことだったのかっ……」
ユミルは、なにも単に冷酷な人物ではない。
だが俺は……ユミルは『実はそういう一面がある人間だった』と思い込むことで、これまでの謎は全て解けたと自己完結していた。
……しかし、それは違った。
――ユミルのこれまでの行為は全て……自分の《使い魔》を護るが為だった……!!
俺達多くのプレイヤーは――そんな彼の使い魔を、こぞって殺そうと群がっていたのだ……!!
「なんて、ことだっ……」
なんてことなんだ。
なんということなんだ。
少し前までの俺に、俺は自問する。
大鎌の謎は判明した……? 死神事件は解明した……?
……違う。俺は大馬鹿者だ……!
俺は……この事件の全ての真相を知ったわけではなかった……! 俺は……俺は何も見えていなかった……!!
「――ユミルッ…………お前はっ……ミストユニコーンの《ビーストテイマー》……だったのか……」
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