その感情に、名前を。
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飛んだティアが、華奢な体躯に似合わない巨大な大砲を担ぐように構え、その砲口から水の砲弾を勢いよくぶっ放す。ズドン、と重い音を響かせて、鱗のない腹に叩き込む。
仰向けに倒れ、ばたばたと足を動かすアバランチに薄く笑みを零す。もがいているだけなら、そんなのはアランの脅威ではない。立ち上がろうと大きく動く足を避けて、その最中に右腕を振るう。切り払うように振るった腕の軌道から放たれた魔力の刃が、アバランチの右足を傷つける。
少し、浅かっただろうか。まあ構わない。宙でくるりと一回転しつつ地に降り立ち、ぱちんと指を鳴らす。
「魔神の十戒」
囁くように呟いたそれが、仕込んだ魔法を発動させた。与えた傷を起点に確実に十の痛みを与えるそれが、アバランチの全身に十の傷をつけていく。
響く咆哮。最後の抵抗とばかりに吹き出す冷気。けれど、何をしようともアランの魔法からは逃れられない。どんな状態であれ状況であれ、必ず十回の攻撃に相当する傷を生む。今使ったのは、そういう魔法なのだから。
抵抗が、徐々に弱くなっていく。声が枯れ、冷気が薄れ、だらりと力なく倒れ伏す。完全に伸びきった姿を確認して、ほっと息を吐いた。他の魔物は到着早々にティアがまとめて倒していたし、これで今回の依頼は達成だろう。これがトドメとならなかった時の為に握っていた拳を解く。
「ねえ」
呼びかけられ、思わず肩が跳ねる。私情を挟まず仕事に取り組んだつもりだったが、知らないうちに何かやらかしてしまっていたのだろうか。
なるべく自然な様子を心がけながら振り返る。翼を畳んだティアが、眉を顰めてアバランチを指していた。
「マスターから聞いた時も思ったけど、おかしくないかしら。比較的温暖な地域に、どうしてこんなのが平然といる訳?」
よかった。やらかしてしまった訳ではないらしい。肩の力がふっと抜ける。
「さあ…実は亜種だったりするんでしょうか」
「コイツの亜種が確認されたなんて話は今のところないはずよ。既にコイツが目撃されて、アバランチだとはっきり言われている以上、その線は薄いわね」
「そうですか。…けどこの辺り、別に気象の異常とかも特にないですよね?最近急に寒くなったとか」
「ええ、むしろ快晴続きよ」
「だとしたら…」
気を失ったアバランチを見つめる。亜種ではなく、この辺りの気象がおかしくなった訳でもなく、それ以外の理由でこの地域にやって来たとして、その理由は何なのだろう。
ここは高山ではない。寒冷地でもない。アバランチが住み着く事でこの辺りが寒冷地になっていくのかもしれないが、どうしてわざわざ生息地ではない場所にまで降りて来たのかが解らない。住む場所に追われているのだろうか。けれど、それならなぜわざわざ温暖なこの辺りを次の住処に決めたのだろう。この近くに高
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