その感情に、名前を。
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。
(……憎む、か)
懐かしいな、と思った。
昔は、視界に映る全てを憎んでいた。欲を隠そうともせず近づいてくる大人達が憎くて、それを助けてくれない世界が憎くて、あんなにもあっさりと神殺しを得てしまった自分自身を何より憎悪した。憎くて憎くてたまらなくて、いっそ全て壊してしまおうかと何度思った事だろう。結局はあと一歩のところで立ち止まってしまって、全てどころか部屋の扉すら壊せやしなかったのだけれど。
―――腹の底から、黒い何かがじわじわと侵食してくるような感覚。じりじりと炎が燃えて、全身をゆっくりと巡っていくようなそれ。暗い暗い感情を、アランはずっと前から知っている。ここ最近は忘れ切っていた、幼い頃の記憶を彩る黒を。
(そうじゃ、ないんだよな。……僕は、ティアさんを憎んではいない)
憎いとは思わない。かつてアランを利用しようとしていた人達に対して向けていたそれと、今ティアに対して抱くこれは別物だ。そう断言出来る。断言は、出来る。
けれど、これが何なのかは解らない。恩人を牢送りにされた事への怒り?いいや違う、そんな八つ当たりをしようなんて思わない。なら哀しみ?それも違う。喜でも楽でもないのは考えるまでもない。そして憎しみでもなくて、それなら、これは?
「……足、引っ張らないように頑張りますね」
目線を落としたまま呟く。
返事はなかった。
仕事に私情を持ち込むな、とティアは言った。聞いた時は、さてどうなる事やらと思った。
だが、実際仕事中となると余計な事を考えている暇などない。抱えていたもやもやとしたものも、今だけは消えている。今考えるべきは目の前の敵の対処法。どこを殴るか、どこを貫くか、打つべき手は何なのか。それだけを考えて、それ以外を全て切り捨てる。
「―――魔神の、」
駆けて、跳ぶ。右手を後ろに引いて、魔力を集中させる。目を見開き、ターゲットをしっかり捕捉する。
狙うのは一番の大物、アバランチ。腹目がけて放たれた大海怒号の勢いで体勢を崩した、その瞬間を狙って魔力を開放する。
「西風!」
突き出した右手、展開した魔法陣から黒い光の旋風が吹き荒れる。頭部から尻尾の先までを、余すところなく傷つけていく。低く響く呻き声に少し眉を顰めて、着地すると同時に地を蹴った。
まだ向こうは動けそうだ、決定的な一撃とはならなかったらしい。ゆっくりと体勢を整えようとしている姿を見据えて、距離を詰める。右腕を指先まで真っ直ぐにぴんと伸ばして、魔力を纏う。
「すいません、ティアさん!」
「いいわ、動けなくすればいいんでしょ?―――もう一発喰らいなさいな、大海大砲!」
声を張り上げると、上から返答があった。
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