その感情に、名前を。
[3/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
いくつも見つかるであろう、ギルドを代表する強者。
その彼女がいれば、この依頼を片付ける事は難しくないのだろう。アラン一人でやるよりも成功率は格段に上がるし、早々に片付いた方が依頼者達も安心する。だから困る事なんて何一つないはずなのに、アランの気分は絶賛低飛行中だった。いつ墜落してもおかしくないくらいにはどんよりしていた。
(……解ってるんですよ、ちゃんと)
そうだ。アランはちゃんと解っている。
あの時―――ニルヴァーナの一件が片付き、ジェラールが評議院に連行されていくあの時。あの場にいた面々は皆ジェラールを庇おうとして、それを他でもないエルザに止められて。あの中で唯一、ただそこにいて事を眺めていただけの彼女が、本当は正しかったのだという事くらい。
ジェラールは悪人だった。かつてアラン達を助けてくれた事に変わりはないけれど、それでも今の彼は悪だった。法によって裁かれるべき対象で、自由にしていい人ではなかった。死刑か無期懲役はほぼ確定、そう言われるほどの事をしたのだという。
これが、その対象が赤の他人であったなら、アランはそれを流したのだろう。だって他人だ。アランの世界の中にはいない、壁の向こうの名無しの一人だ。狭く狭く作られた自分の世界にいない人がどうなろうが、アランには関係ない。壁の外で呻こうが、向こう側で叫ぼうが、アランの心は揺れもしないのだ。
けれど、その対象はジェラールで。誰の事も信じられず、誰の言葉も嘘にしか聞こえなくなっていたアランに手を差し伸べてくれた最初の人が、そんな風に言われていて。自分一人だけだった世界に触れて、そっとその中に入り込んで、それでもアランの世界を壊さずに、ただ少しずつ広げる手伝いをしてくれたあの人が、死刑か無期懲役なんて、そんな事。
納得出来なかった。理解したくなかった。それが本当の事だとしても、それを認めたくなんてなかった。だから拳を振るって、それが間違っているとどこかで解っているのに諦められなくて、そして―――――。
「憎いかしら」
ぽつり、と。
唐突に、窓の外を見ていたはずのティアが言った。
「…え?」
「別にいいわよ、憎んでくれても」
「え、え……っと」
「ただし、仕事の時は私情を挟まないで。そのせいで仕事に支障が出たら、ギルドの看板に傷がつくから」
目線は未だ窓の外。頬杖を付いて、淡々とそれだけ告げたティアは口を閉じる。そんな彼女に何か言おうと口を開きかけて、結局何も言えずに目線を落とす。もう言う事はない、とでも言うように目を閉じたティアにちらりと目をやって、小さく溜め息。きっと耳のいい彼女には拾われてしまっているだろうが、こちらとて今の溜め息を隠すつもりはなかったのだから構わないだろう。
上手く隠しているつもりだった。けれど、それはつもりに過ぎなかったらしい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ