その感情に、名前を。
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『――――それなら、オレと一緒に行こう』
そう言って、何でもない事のように手を伸ばしてくれた、その人は。
暴力を振るう訳でも、脅しにかかる訳でも、こちらに傅く訳でも、憐れんでくる訳でもなく。
ただ、そっと、傍に寄り添ってくれていて。
「解ってるんです。あの場でジェラールさんを逃がす事は、正しくなかった。僕等はそれがあの人の為だと思っていたけれど…きっと、本当にあの人を思うなら、静かに見送ってあげるべきだったんです」
こちらを向いて、穏やかに微笑んでいた顔を思い出す。
彼はきっと、牢に入れられる事を恐れてなどいなかった。拒んでもいなかった。推測の域を出ないけれど、あの人はきっと、幸せになる事を恐れていた。彼の為だと伸ばした手を、きっとあの人は拒んでいた。
「それでも僕は、彼を助けたかった。幸せであってほしかった。……未熟なんでしょうね、僕は。もう過ぎた事なのに、解っているつもりなのに…それでもあなたに未練がましく思ってる」
その目を見つめる。目線を合わせる事さえ避けていた、透き通る青を真っ直ぐに。
「だから、ごめんなさい。多分、まだ割り切れません。ウェンディやココロがあなたと接するようには、僕にはまだ出来ない。けど、ティアさんの事を憎いとは、思ってません」
今までも、これからも。
そう告げたアランに、ティアはすぐには答えなかった。数秒目を伏せて、小さく唇を噛んで、ほんの少し俯いて。向けられた言葉に対する返事を探すように沈黙して、少しして、そっと口を開く。
「…変な奴」
絞り出して吐き捨てるように言って背を向ける。少し早足で村へと戻って行く後ろ姿を数秒見送って、アランはふっと微笑んだ。少し駆けて、それからペースを落として、彼女に追いつかない程度のペースで背中を追いかける。
胸の奥で燻る“それ”が、ほんの少し軽くなった気がした。
「ただいま戻りました。……あ」
「ん?…ああ、おかえり。フィジックス」
行きより軽い心で列車に揺られ、何なら一言二言ではあるものの雑談までして。上向き気分でギルドに戻って来たアランの目に留まったのは、仕事から帰っていたライアーだった。こちらを向いた顔がアランの後ろ、駆け寄って来た弟にじゃれつかれている(とアランの目には見える)ティアを捉え、物珍しいとでも言いたげに目を丸くする。
「二人で仕事だったのか?珍しいな」
「ええ、まあ。ライアーさん達の方はどうでしたか?」
「無事完了だ。……本気を出したスバルというのは、あんなにも強いんだな……相手を一切近づけさせず全弾外さず、そのくせ普段の何倍も冷静だった…主すら絶句していた……」
「え、何があったんですか!?あのクロスさんが絶句って…相手
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