その感情に、名前を。
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全員って何ですか。アバランチだけじゃなかったんですか。
喉の奥まで出かかった疑問は飲み込む。もう終わった事なら聞く必要はない。
「そういえば、僕を攫った奴が言ってました。魔法で今回の事態を引き起こしたと。評議院に突き出しますか?一応、逃げないようにはしてきましたけど」
「そうね。あとで通信用の魔水晶を借りて、兄さんに連絡するわ」
「了解です。依頼人には僕から話しておきますね」
「ん、よろしく」
ひら、と手を振ったティアが背を向ける。その背中を小走りで追いかけて、その隣に並び立つ。自分より少し高い位置にある顔に少し目をやって、一度逸らしてから、今度はじっと見つめた。
―――何も、湧き上がって来ない。その横顔を見つめていても、何も。
「…何」
足を止めたティアが、目の動きだけでこちらを見る。
「……いや、やっぱり違うなって」
「は?何が」
「僕は別に、ティアさんを憎んでる訳じゃないなって、そう思って」
眉を顰めたその顔を見据えて、ああやっぱりと確信する。奥で燻る何かはそのままでも、侵食してくるような黒はない。爪先から燃やし上げていくような熱も、すっかり鳴りを潜めている。あの誘拐犯に向けた憎悪は、ティアと向き合うアランの中にはなかった。
「多分、納得出来てないだけなんです。ジェラールさんを助けてほしかったって、僕は未だに思ってる。あと一人、あの場で誰かが動いてくれていたらって……未練がましく、そう思ってるんです。それがあなただったなら、ギルド最強の女問題児と名高いティアさんだったなら、あの人を救えたんじゃないかって」
「……言っておくけど、私はあの時の選択を後悔なんてしてないわよ。罪を犯したならそれを償う、当然の事でしょう」
「ええ、解ってます。それでも……僕にとってのあの人は、恩人なんです。あなたにとってのあの人が罪人であるのと同じように、僕にとっては……それこそ、神様みたいな人だった」
誰もがアランの力を欲した。逆らえば暴力に出て、時に脅して、傅いて。
誰もがアランを憐れんだ。可哀想に、と口を揃えて、けれどそれ以外には何もしてくれなくて。
そんなもの望んじゃいなかった。崇拝なんていらない。同情だって求めていない。神殺しなんて、ほしいならくれてやる。こっちだって望んで得た訳じゃないのだ。そちらが神殺しを得る為の補助くらいはしてやるから、だから、お願いだから放っておいてほしい。そう何度も願って、無視されて、いつしか望む事さえ諦めて。ただただ、近づいてくる人間を追い払うだけの機械になりかけていた。
故郷が自分一人を残して消えた時もそうだった。どこまでも色のない更地、誰一人いない街だった場所。誰の声もしない空間で、着古した部屋着姿のアランは、ただその場に座っていて。
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