その感情に、名前を。
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にさせてもらいました。まあ正直、あの程度の嘘が通じるとは思ってなかったんですけどね。予想外に騙されやすい人で助かりましたよ」
「え…」
「というか、人の話はきちんと聞かなきゃ駄目でしょう?僕は一言も、一度だって、あなたに協力するなんて言ってないんですから」
にこりと笑う。男は信じられないとでも言いたげな顔でこちらを凝視していて、その顔にかつて見た何人もの顔が一瞬重なった気がした。胸の奥からじわりと湧いた感情のままに笑みを消して見下ろせば、途端に表情が強張る。
恐ろしいほど解りやすい。要はアランに見放されたくないのだ。彼に、神殺しに見放されたら、自分の望みは叶わないから。そうなればどんな手を使ったとしても、二度と頷いてはくれないから。頷くどころか、目すら向けてくれなくなってしまうから。
「…おっと」
のろのろと伸ばされた手から逃れるように身を逸らす。そのまま立ち上がり、薄く笑った。
「僕、誰かに触れられるのって嫌いなんですよね」
「…あ……」
穏やかに、緩やかに告げた拒絶に、目が見開かれた。
ぱたり、手が落ちる。
ぴくりとも動かなくなった姿を数秒見つめて、ふーっと息を吐く。
あれが意識を保つ限界だったのだろう。いいやまだ、もしかしたら、可能性はゼロじゃないから。そう自分を奮い立たせて、どうにか気を失わないよう堪えていたのだろう。滅神魔法を受けてなお意識を保たせていたその執念には脱帽する。
だが、どんな執念であろうと、どんな願いを抱えていようと、知った事ではない。
(……だって、そうでしょう?)
気を失った男の横を通り抜けて、見える階段を目指す。
感情の抜け落ちた顔のまま、誰に言う訳でもなくぽつりと呟く。
(誰も、誰も。……誰一人だって、僕の願いを聞いてすらくれないんだから)
「その僕が、どうして他の人の願いを聞いてあげなきゃいけないんです?」
「何だ、大丈夫そうね」
閉じ込められていた部屋を出て、どうやらあの部屋には地下にあったらしく階段を上がって、どうやら小屋らしい建物の中から出て、真っ先にアランの耳に飛び込んで来たのはそんな声だった。
目線を上げると、腰に手を当て首を傾げたティアが息一つ切らさずに立っている。見たところ怪我もなさそうだ。
「ええ、何とかなりました。逃げる為に多少殴っちゃいましたけど、正当防衛になりますかね?」
「さあ?私、そういうのよく知らないから。まあアンタが悪いって言われる事はないんじゃない?状況が状況だし」
「…ええと、因みにアバランチの方はどうなりました?聞くまでもない気がしますけど」
「言うまでもないと思うけど、全員まとめてぶっ飛ばしたわよ」
「ですよねえ」
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