その感情に、名前を。
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頷いた男が、まずは縄を解く。それから足枷を外して、それらをまとめて長机に置いた。
これで拘束は全て解けた。立ち上がってぐっと伸びをして、凝り固まっていた体を軽くほぐす。
「…よし、それじゃあ行きましょうか」
「そうだね。…ああ、夢みたいだよ。やっと俺の望みが叶うんだ…あなたが、叶えてくれるんだ……!じゃあまずは部屋に案内するよ。それから、ああ、それから……っ!」
にこりと微笑んで見せれば、歓喜に震える声。扉を開けようと背を向けた男の後ろ姿を、笑みを消してすっと見据える。ぱち、と瞬きを一つすれば、少女二人には見せられない、温度のない瞳に切り替わった。
一瞬だけ冷えた体に、足の爪先からじりじりと熱が広がっていく。腹の底から黒い何かがじわじわと侵食してくるそれは、遠い昔に抱いて、今はもう捨て去ったはずのもので。
「これ以上ティアさんを待たせるのも悪いですから」
――――ああ、懐かしいな、と。アランは、冷めた思考の片隅で思った。
「え、」
戸惑ったような声。鍵を開け終えた男が振り返りかける。中途半端にこちらを向いた顔に薄く笑みを零して、アランは引いた右腕を静かに突き出した。瞬間、魔法陣が展開する。さっと男の顔色が変わるが、もう遅い。
吹き荒れた旋風が、男の体を容赦なく叩く。そのまま閉じた扉ごと吹き飛ばし、向かいの壁に叩き付ける。どん、とぶつかる衝撃音。長机の上の凶器達が、衝撃を感じたのか小さく揺れてぶつかり合った。かたかたと、微かな音が静寂に紛れ込む。
「がっ……!?」
俯せに倒れる男が呻く。その上に外れた扉が倒れ、顔を顰めている。
「…な…んで……」
「あれ、意識あるんですか?無駄に頑丈ですね、あなた。今の、あれでも神殺しですよ?」
くすり、と笑う。冷え切った目のまま、唇だけで弧を描く。
神殺し、の一言に男の肩が跳ねた。解りやすい反応に少し目を細めて、アランは部屋を出る。倒れる男の視線の先にしゃがみ込んで、ことりと首を傾げてみせる。
「すいませんね、お兄さん」
「…は……」
「僕、人を騙す事にあんまり抵抗がないんです。自分が助かる為ならいくらだって嘘を吐きましょう、自分が辛く苦しい目に遭わない為なら相手が誰であれ本性を隠しましょう、自分を救う為ならどこまでだって欺き続けましょう。……僕っていうのはそういう奴なんですよ。幻滅しました?―――ああ、はいともいいえとも言わなくていいですよ。答えなんて求めていませんから」
きっと否と言おうとしたのだろう。何かを言いかけた男の口が声を発する前に答えを蹴って、笑みを深める。男の目に浮かんでいるのは、畏怖、だろうか。その色にも、覚えがある。
「ええ、ですから今だって。このままじゃ暴力を振るわれそうだったので、騙す事
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