巻ノ九十六 雑賀孫市その七
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その激しい戦と変わらぬ修行の中でだ、穴山は腕を上げ続けていた。それは日一日というものではなく。
「一瞬ごとにじゃ」
「それがしは強くなっておりますか」
「うむ」
その通りだとだ、雑賀は穴山に修行の中で答えた。今は朝起きてすぐにまずは飯を食っていた。その中での言葉だ。
「修行の中でな」
「そうであればいいですが」
「わしも驚いておる」
雑賀はこうも言った。
「ここまですぐに強くなっておる者ははじめてじゃ」
「そうなのですか」
「これは思ったよりも早く強くなる」
こうもだ、雑賀は話した。
「そして免許皆伝もじゃ」
「それもですか」
「早いな」
雑賀はここで笑った。
「これは」
「そうであればいいですが」
「そうせよ、それでじゃあが」
「それでとは」
「うむ、天下は今は徳川殿のものとなったが」
天下の話をだ、雑賀はここでしたのだった。
「それは定まってきておるか」
「はい、それはかなり確かにです」
幸村が答えた。
「定まってきております」
「そうか」
「はい、泰平の天下がです」
「定まるか」
「そうなってきております」
「豊臣家の天下かと思ったが」
雑賀の見立てではだ、そうだったというのだ。
「そうはならなかったか」
「どうにも」
「そこはわからぬのう」
人の世のそれはというのだ。
「徳川殿の天下になるとは」
「はい、そのことは」
「人の世はそうしたものか」
雑賀は遠い目になり言った。
「どうなるかわからぬか」
「そうかと、しかし」
「しかしとは」
「おそらく徳川殿の天下はです」
「定まるか」
「そうなると見ております」
幸村は確かな顔で雑賀に答えた、そこには確かな知性と品格があった。媚も偽りも一切ない顔であった。
「それがしは」
「それは何故か」
「太閤様は天下を統一されてからすぐに戦をされました」
「唐入りじゃな」
「それで天下を定める政がおろそかになりました」
「それで天下を定められず」
雑賀も状況がわかってきた。
「太閤様がお亡くなりになられてか」
「そうです、その後はです」
「豊臣家の天下は終わったか」
「何よりも大納言様がおられなかったので」
幸村は雑賀に彼のことも話した。
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