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彼願白書
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まない限りは周囲を見回しても見つからなかった場合でしかそもそも気付けないのだ。
そして、ようやっと春風が気付いた空には、正に今、白いワンピースドレス姿に大掛かりな艤装を背負った少女が逆巻くような光を纏った槍を突き出し、『ハーミテス』の張った目に見えるほどの緑光の防御壁と激突するところ。

春風は咄嗟に、姉を庇うように地面に伏せる。
甲高い激突音と同時に濁流のような轟音が響く。
地面に伏せ、目を閉じているはずの春風の瞼の裏でさえ白い光が覆い、春風達を吹き飛ばしかねないほどの爆風が暴れる。
いったい何が起きているのか、春風にはわからない。

暴威が駆け抜けたのは、本当に一瞬だった。

春風はむしろ、そのあとの残響が抜けずにいた。

だからこそ、春風が気付いて顔を上げた時には、既に白いチューブトップドレス姿の少女が地に降りていた。
先程まで、死そのものだったそいつが、膝を着いている、それを見下ろすように。
姿から、その少女がなんなのか、見た目だけなら春風にもわかる。

駆逐艦、叢雲。

それは、春風自身も見たことがあるし、壊滅する前のトラックにも叢雲はいた。

だが、こいつはなんだ?

春風の知る叢雲でありながら、今のは明らかに叢雲という存在に収めるには規格外が過ぎる。
春風は、こんな叢雲を知らない。
手に持ってるそれは、飾りとまで疑われる槍のようなマスト、ではない。
間違いなく殺意の権化であり、破壊の兵器。
まるで、神話の世界からそのまま引っ張り出したような、オカルトの極致にあるような一撃。
あんなものを放つ手段も、存在も、春風は知らない。
そして、春風が叢雲から感じた感覚は、味方の救援ではなかった。

それは、『第三勢力の出現』という感覚だった。

実際、叢雲は春風達のことはどうでもよかった。
目の前の敵を倒すのも、目的ではなかった。
叢雲はただ、速やかに自分と壬生森だけの場所、あの地下室に帰りたいだけ。
自分だけが、司令官の隣にいるあの空間に、速やかに帰りたいだけ。
そのための手段が、目の前の化け物を葬ること。

ただ、それだけなのだ。

叢雲にとって、目の前のネームレベルは、その程度の価値しか持たないし、叢雲は既に、この敵を擂り潰すべく、槍を握り直している。

「ハーミテス……いや、『インディアナポリス』。アンタの狂乱も、長旅も、これまでよ。私がここで、解体してやるわ。」

槍をまた、輝きと共に構える叢雲に、『インディアナポリス』と呼ばれたその化け物は、半狂乱で叫びながら飛び掛かる。
それを待ち構えていたかのように、音すらなく、閃光がするりと胴を貫いて、その身体を宙に縫い止める。

「可哀想に。かつては司令部すら擁した栄誉の艦も、晩節を呪われてこのザマとはね。」

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