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彼願白書
リレイションシップ
クロスファイト
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はなかっただろう。
口の中に入り込んだ爆弾は、たった一発。
本来の爆撃機のそれより遥かに小さく、風切り羽根も付いていない、ただの派手に爆発するだけの黒いフットボールは、およそ9.81m/s^2の重力加速度による落下運動と雷撃高度より遥か下の超低空からホップアップしつつ航空機から放り出されたという物理法則によってやや、山なり気味に放物線を描いてその口へと入り込んだ。

普段ならば海面を跳ねていたハズのその爆弾は、信管の作動から起爆までそれなりの時間を要する。
だからこそ、その爆弾は口の中の更に奥まで転がり込む。

鈍く、太鼓を叩いたような音がする。
口から煙を吐いたネームレベルは、完全に天龍達に顔を向けようとしていた。
しかし、そうするにはもう遅すぎた。

煙を吐きながら開けた口の中に左右から差し込まれる刃。
天龍と木曾が左右から突き立てたその一撃。
それが、巨砲の薬室を確実に貫く。

「かてぇなぁ、こいつ。このまま切り飛ばしてやろうと思ったのに。」

「まぁ、どっちみち、二度と撃てねぇだろうさ。」

二人が剣を引き抜くと、そこには無視出来ない大きさの亀裂が確かに出来ていた。

「オマケだ。遠慮せずにとっときな。」

木曾がサイドアームでマウントしていた魚雷を、発射管ごとその口に投げ込む。
本来ならば、魚雷だけがその巨体の土手っ腹に刺さるハズだったそれを、もはや用無しとして潔くパージ出来る割り切りのよさが、木曾の美徳だろうか。
対する天龍は、ネームレベルの頭上に飛び上がり右足を思いっきり高く上げる。

「薬は注射より飲むのに限るらしいぜ、ってなぁ!」

天龍はネームレベルの頭蓋を右足の踵でしっかりと捉え、思いっきり蹴り落ろす。
明らかに体格差のある状態ながら、その威力は激しく打ち据えられたその金属音に周囲の者が耳を抑え、眉をひそめるほどのもので。
物理法則など明後日に放り出した、不条理な威力の踵落としはその蜥蜴の頭蓋を確かに地面に叩き付け、上顎を閉じさせ、今度は魚雷5発の爆薬によって喉奥まで爆発の串刺しになる。

逃げ場のない爆発は取って付けたかのような肩の連装砲などを吹き飛ばして溢れ出す。
同時にトゲのように生えていた高角砲も次々に根元から内側の爆発に吹き飛ばされて落ちる。
明らかに魚雷だけの爆発ではないそれは、確実にネームレベルの身体を内から砕いていく。
引き摺るように水面に向かって這い、水の中に入り込もうとする化け物に次々に熊野達が遠巻きに撃ち込んだであろう砲弾と爆弾が突き刺さる。

それでも怪物は突き進み、口から黒い汚泥と破片を吐き出しながら、身体から瓦礫が剥がれ崩れながら、ついに水面に身を潜らせた刹那だった。

「私達のことを、忘れてはいませんか?」
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