Side Story
少女怪盗と仮面の神父 46
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吸と気持ちを整えてから、ハウィスは教えてくれた。
約二十五年前の開戦以降、彼女が見聞きしてきた事。感じた事。その総てを。
一介の町民だったハウィスとマーシャルの両親は、戦時中、アルスエルナの貴族に殺されていた。行軍の妨害が理由と言われたが、両親は歩兵が突き飛ばした怪我人を助け起こしただけだ。
その貴族は、国防上の重大任務を帯びて先を急いでいたらしい。作戦中に一手でも誤れば……一分でも遅れが生じれば、即座に千の命が奪われる時代。遮るものがあれば突き破るより他に無かったのかも知れない。
けれど、杖を使ってやっと歩ける片足しかない小さな子供に剣を振り下ろして平然と駆け去った背中を、物言わぬ肉塊と化した両親に縋り付いて泣き叫ぶマーシャルの姿を、貴族に逆らったと思われたくなくて我関せずと逃げ出した町民達の冷めた目を、其処に抱いた負の感情を、ハウィスは今でも鮮明に覚えている。
保護者を喪った事で住処まで失くし、一日を凌ぐにも壮絶な苦労を強いられるようになった浮浪児の姉妹は、戦乱の世を生き抜く為にそれぞれの手で武器を握った。
石礫が木の棒に。木の棒が錆びた包丁に。殺傷能力を少しづつ向上させながら、同時に狩りや盗みの腕も磨いていく。
両親を斬った凶器と同じ類の長剣を手に入れた頃には、姉妹の行く手を阻める者などいないと豪語できる程度に成長していた。二人が揃えば何処へだって行けるねと、無邪気に笑い合えた。
それも、終戦が宣告される数か月前……マーシャルが複数の男に暴行されるまでの話だが。
男達の暴虐に理由なんて無かった。あるとすれば、其処に居たからだ。
女の形をした生き物が其処に居たから、複数の男が蓄積した自らの鬱憤を晴らす為に、女の形の生き物を利用した。それだけの事。
夢中だった。
振り下ろし、薙ぎ払い、突き刺し、斬り刻み、跳ね飛ばす。
男の形の生き物が原形を失って呼吸を止めても尚、ハウィスは声とも言えない叫びを放ち、剣を掲げて、其処に居た自分とマーシャル以外の人間を全滅させた。
そうやって助け出したマーシャルは、心が壊れていた。
少女の時分よりもずっと幼い子供の如く振る舞い、死んだと知っている筈の両親を大声で捜し回り、虫も寝静まる深夜に突然泣き、突然怒り、突然気を失ったりもする。
言葉すらまともに紡げないマーシャルは、それだけでハウィスに無力感を植え付け、深く傷付けた。
雨宿りも満足にできない廃屋で「あぅあー」「まーう」「とーあ」と、最早何が言いたいのかさえ解らない妹を持て余す日々。
一時でも手を離さなければ、二人分の食料は決して獲れない。しかし、食べ物を探す為に別れた僅かな時間で壊されてしまった妹の心を思うと、再び一人にするのは心底恐ろしい。
そんな葛藤を続けていれば当然、姉妹は日に日
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