巻ノ九十六 雑賀孫市その五
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「鉄砲を一本ではなくな」
「短筒と」
「それと合わせてじゃ」
「撃つことですな」
「これもじゃ」
言いつつだ、雑賀は懐から包絡を出した。かつて蒙古の軍勢が鎌倉幕府と戦った時に使っていたものだ。
それを出して投げて爆発させてだ、穴山に言った。
「使うことじゃ」
「炮烙ですか」
「これもじゃ」
「それがしも使っていましたが」
「多くはなかったな」
「はい」
実際にだとだ、穴山は答えた。
「実は」
「鉄砲が多かったな」
「火薬の術は」
「しかしじゃ」
「それをですな」
「短筒にな」
「それもですな」
「使ってじゃ」
そうしてというのだ。
「戦うことじゃ」
「これからは」
「そうすればな」
雑賀はさらに言った。
「御主はさらに強くなるわ」
「火薬の術についても」
「火薬は強い」
雑賀は確かな声で言い切った。
「だからこそじゃ」
「これまで以上に」
「身に着けてもらう」
是非にという言葉だった。
「よいな」
「はい、それでは」
「折角ここまで来てもらった」
それならばというのだ。
「それならばな」
「全てを身に着け」
「帰ってもらう」
「だからですか」
「そうじゃ、わかるな」
「はい、雑賀殿はそれがしに全てを授けようとされています」
今も山の木々の中を跳ぶ様に駆けている、そうしつつ雑賀は鉄砲も短筒も放ち炮烙も使う。それは一人で千人以上は相手に出来る程の凄さがあった。
その彼の動きを見てだ、穴山は言うのだ。
「その凄まじさからわかります」
「そうか」
「はい、それではそれがしも」
「受けてくれるな」
「必ず」
穴山も鉄砲や炮烙を使いつつ答える。
「この動きをさらに短くさせて」
「そうせよ、しかしな」
「はい、そこまで至るのもですな」
「容易ではない、並の者では無理じゃ」
雑賀は穴山に言った。
「到底な、しかしな」
「それでもですな」
「御主なら出来る」
こうも言うのだった。
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