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真田十勇士
巻ノ九十六 雑賀孫市その二

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「いや、ここはです」
「他の場所よりもな」
「木が茂っていますな」
「そうじゃな」
「こうした場所に人がおるとなりますと」
 鉄砲を右肩に担いだうえでの言葉だ、最早鉄砲は彼にとっては身体の一部だ。
「やはり」
「仙人かな」
「忍の者ですな」
「若しくは修験者じゃ」 
 そうした者達だけだというのだ。
「いるのはな」
「そしてですな」
「ここに雑賀殿がおられる」
 二人が会おうとしている彼等がというのだ。
「ではな」
「はい、今より」
「雑賀殿にお会いしようぞ」
「わかり申した、ではこれより」
「周りの木々の言葉を聞いてな」
「そうしてですな」
「雑賀殿のおられる場所を聞こうぞ」
 二人でだとだ、そして耳をそばだててだった。二人は実際に木々や草や石、鳥や獣達の言葉を聞いた。そのうえで。
 熊野の奥にある一軒の庵に着いた、その庵の前に来るとだ。
 一人の男が出て来てだ、驚いて言って来た。
「人か」
「はい、そうです」
「まさかこの様な場所に人が来るとは」
「実は雑賀殿にお願いがありまして」
 幸村はその男雑賀孫市にすぐに言った、見れば彫りが深く荒削りな顔立ちをしている。背は高くしっかりとした体格だ。
「こちらに主従参りました」
「わしにか」
「はい、修行をと思いまして」
「その言葉の訛りは信州か」
 幸村の話を聞いていてだ。雑賀はこのことに気付いた。
「まさか」
「はい、左様です」
「そしてわしの居場所を探し出せるとなると」
 信濃の生まれでだ、雑賀はこの二つから考えて述べた。
「貴殿、真田左衛門佐殿か」
「おわかりですか」
「考えていけばわかる」
 それでというのだ。
「信州生まれでそこまで出来るとなるとな」
「そうですか」
「九度山に流されていたと聞いておったが」
「雑賀殿に是非にと思いまして」
「山をあえて出てか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「是非にと思いまして」
「そこまでして来るとはな」
「いけませぬか」
「幕府を恐れずか、いや凄きことじゃ」
 雑賀は幸村と穴山を感心する顔で見つつ言った。
「見事、ではな」
「それでは」
「うむ、そちらの御仁は十勇士の一人か」
「穴山小助と申します」 
 穴山は自ら名乗った。
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