ホープレス・チャント-Love your enemies-
開演
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コーヒーを一口。
「……ちょっと怖がらせすぎちゃったでしょうか」
「ううん、グウェンにはいい薬でしょ。……まったく、そのヤバい薬の方は効かないで欲しいもんだけど」
……しかして、正面を向いたルクスは、むしろ申し訳なさそうな表情で、しゅんと身体を小さくすくませていて。気にするなとばかりに肩を叩くリズを見るに、あまり危険な場所には近づかないように、というグウェンへの釘刺しのための演技か。
「さて、今から帰っても《ALO》はメンテ中だし……いい加減、ケーキに舌鼓を打つとしましょうか!」
「……そうだな」
そうしてリズが、拍手をするかのように手のひらを叩いて。《ALO》の新情報の件やグウェンの電話の件ですっかり忘れてしまっていたが、俺たちの前にはケーキがあるのだった。クリアボーナスセットとして、長く厳しい――という訳でもない、むしろシュールな戦いを共に乗り越えた報酬に、俺たちは改めて手を合わせて。
『いただきます』
「食べた食べたー!」
「お粗末さま」
「あんたが作った訳じゃないでしょー」
ルクスは丁寧なお辞儀とともに喫茶店の前で別れたため、駅までの帰路は俺とリズのみで。流石は《オーグマー》と言ったところか、クリアボーナスセットにいたくご満悦のリズの隣で、もう暑くなってきたな……と、手で自らを扇ぐ。
「……ね、リンダースのことなんだけど」
「どうした?」
「アスナたちの家を見る限り、家とかは再現されてるわけじゃない?」
「ああ……」
ふと、隣を歩くリズが神妙な面持ちとなって、ずっと気になっていたであろうことを口にする。俺たちより遥かに早くプレイヤーホームを取り戻して、メンバーの集合場所にも使われている、第22層のキリトの家を思い出しながら。当時の旧アインクラッドでも何度か行ったことはあったが、現在の《ALO》に再現されたものと変わりはなかったはずだ。
「なら……あのお店に、ハルナはまだいるのかしら」
「…………」
ハルナ。旧アインクラッドにおけるリズベット武具店において、店員をやっていた女性のNPCの名前だ。特に何かが変わっている訳ではなく、通常の店員NPCと違いはないのだが、それでもリズにとってはデスゲームをともに生き抜いた『友人』だ。
「こちとらずっとお世話になってたってのに、お別れも言わないで消えちゃったんだもの。だから……まだ、あの店で待ってるんじゃないかなってね」
「リズ……」
「……なんて。そんなロマンチストみたいな話、あたしらしくないわよね! ごめんね、忘れて」
「……早く、迎えに行こう」
「え?」
気恥ずかしくなったのか、おどけて笑うポーズを取るリズに対して、小さく背中を叩いてみせる。い
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