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蒼き夢の果てに
第7章 聖戦
第172話 蝶の羽ばたき
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部分がある、と言う感じ。もしかすると、此奴を送り込んで来たのが這い寄る混沌なら、この匿名希望のチンチクリンがこの場に現われた事にも何らかの意味がある。その部分を深く考えてみろ、と言う警告なのかも知れないのだが……。

 ほんの僅かな逡巡。表面上からは分からないが、優柔不断な心の表れ。その俺の迷いを感じ取ったのか、それまで大人しく俺の右肩の後ろのただ立ち尽くしていたタバサが半歩分だけ前に出た。
 普段通りの淡々とした表情で……。

 一瞬、かなり怯んだような気配を発するチンチクリン。自分の能力に自信を持っていたハズの此奴が怯むと言う事は、矢張り、今まで現われた敵とは少し違うみたいだな。
 何にしても――
 僅かに苦笑を浮かべながら、ずいっと一歩、チンチクリンに向かって踏み出す俺。
 そして、

「いや、タバサ。オマエさんは手出しする必要はないで」

 ……と言うか、自身も手出しする心算もないのだが。
 そう言いながら、右肩の後ろにタバサを置く俺。

「一応、もう一度聞くが、素直に引き下がってくれると非常に助かるんやけど、どうかな?」

 そして再びの。いや、今度こそ本当の意味での最終確認を行う俺。気分としては素直に道を譲ってくれ。そう考えながら。
 しかし――

「そうですか、じゃあ、そう言う事で――
 などと言える訳がないだろう?」

 大体、大見得を切って出て来た以上、ここですごすごと逃げ帰る訳には行かない。
 諦めて終わなければ可能性はゼロじゃない。そうチンチクリンが言った瞬間、奴の心意気に呼応するかのように、奴が行使し続けているエンハンスト系の術。……奴が言うトコロの『アンプ能力』が発動した。

 成るほど。そう考え小さく首肯く俺。何と言うか、ある意味、非常に男らしい意地や見栄の為に廊下の真ん中で仁王立ちとなっているチンチクリン。
 そう言う考え方も嫌いではない。嫌いではないが、しかしそれは蛮勇。所謂、匹夫(ひっぷ)の勇と言うヤツ。
 確かに未だ行使し続ける能力アップ系の術は此奴が諦めていない証だと思う。それに、もしかすると俺の事を甘く見ている可能性もある。
 簡単に人間を殺す事など出来ないだろうと……。

 どうもにやり難い相手なのは事実。それに、肉体強化が何処までのレベルなのかが分からない以上、最悪の場合、自滅する可能性すら存在している。
 普通、人間の場合、自らの筋肉によって自らの身体が壊れて仕舞わない為に、脳の方で限界を超えた動きが出来ないようにリミッターが設定されているのだが、無暗矢鱈と強化された能力と、現実の脳の判断の間にギャップが存在していると、脳の方の判断では安全と認識された行為が実は非常に危険な行為となる可能性すら存在している。
 確かに非常に利己的な奴なのだが――

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