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蒼き夢の果てに
第7章 聖戦
第172話 蝶の羽ばたき
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 辺りには気分が悪くなるほどの……鉄さびに似た臭いが充満し、うす暗い石造りの通路は冬の夜気と死の気配に支配されている。
 吐き出す息が白い。身体の芯までも……いや、魂すらも凍えさせるかのような、そんなあり得ない想像さえして来るこの場所。

「オマエさんが知っている歴史と、今のこの世界の状況。何故、然したる介入もしていないのに、其処に違いが発生しているのか。その理由を知りたいとは思わないか?」

 何故、オマエさんが想定しているよりも事件が起きるのが早いのか。何故、違う方向に向かって進んでいるのか。
 表面上は酷く穏やかな表情で。しかし、心の中ではある種の属性。高名な錬金術師であり、降霊術者でもあったとされるとある博士に、己の魂を代価に用いた契約を交わす際、その悪魔が浮かべていたと言われている笑みを口元に浮かべながら、そう問い掛けたのだった。

 そう、此奴の考え方の基本は介入さえしなければ。つまり、歴史のターニングポイントに直接干渉さえしなければ、歴史は自分が正史だと考えて居る流れのままに進む……と考えているらしい。
 例えば本能寺の変で織田信長を直接助け出さない限り、信長は本能寺で明智光秀に討たれて死亡。その後の流れは光秀の三日天下から秀吉、そして家康へと粛々と進んで行く……と言う考え方らしいのだが。

 但し、歴史の流れとはそれほど確固たる地盤の上に築かれた堅城の如き代物ではない。
 例えば、連歌師の里村紹巴(じょうは)が光秀の句として有名な『(土岐)が今』の句を本能寺の織田信長に伝えたとすると、歴史はあっと言う間に書き換えられて仕舞う。もし毛利が、信長が本能寺にて光秀により討たれた事をもっと早い段階で知って居れば、もし家康が穴山梅雪と共に伊賀越えの最中に討ち取られて居れば、その後の歴史の流れは当然のように大きく変わっていたはず。
 これは歴史を知っている人物が直接介入しなくとも起こり得た可能性。例えばもし、里村紹巴が何かの切っ掛け……ほんの些細な感情の揺れから本能寺を訪れていたならば、後の歴史は変わって居た。
 そう。これはほんの些細な切っ掛けから変わって居たかも知れないと言う歴史上での、もしもの物語。

 こう言う部分から発生するのが平行世界と言うヤツの事なのだが……。

「オマエさんの知っている歴史ではティファニアの現在の立ち位置に違いがあったり、オルレアン大公が死亡に至る経過が違ったりしている理由。
 その責任をどうしても俺になすり付けたいらしいが、残念ながらそれは間違い。
 何故ならば、俺はタバサに因り地球世界から去年の四月に召喚された日本人。其の事件が起きた頃には未だ日本の徳島で暮らす単なる小学生だった」

 流石に、未来にこの世界に召喚される事が運命だったとしても、その未来……俺によって改変
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