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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十話 混迷
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に復帰させてほしい。これは最低限の数字だ」
ホアンが皆を見渡しながら言った。いいぞ、ホアン、戦争拡大など論外だと連中に分からせてやれ。

「無理を言わないで欲しい。それだけの人数を後方勤務から外されたら軍組織は崩壊してしまう」
トリューニヒトが苦虫を潰したような表情で答えた。内心では感謝しているだろう。戦争拡大はトリューニヒトも望むところではない。

ホアンはまだ周囲を納得させるには十分ではないと判断したようだ。そのあとも事例を挙げてソフトウェアの弱体化を訴えた。トリューニヒトを責める形にはなったが周囲も問題だとは認識しただろう。いずれ和平論を持ち出すときに役に立つ。良いタイミングで出したと言える。

結局結論は出なかった。サンフォード議長が今すぐ決めなくても良いだろうと先送りして終わりだ。有耶無耶にするつもりかもしれんがイゼルローン要塞攻略が無くなるなら願ったりかなったりだ。

会議終了後、ホアンが近づいてきた。小声で話しかけてきた。
「拙いな、少々勝ち過ぎたか」
「そうは思わんが現状を認識していない阿呆が多すぎる」

同じように小声で答えながら思った。帝国に戦争継続の意思を捨てさせるまで叩く、その考えに間違いは無い。問題は勝利というものが余りにも甘美で有りすぎる事だ。皆がそれに酔って現実が見えていない。

目の前をトリューニヒトが歩き去ってゆく。そして何人かが私とホアンを見ながら部屋を出て行った。多分私達に戦争反対派とレッテルを張っただろう。その通りだ、それのどこが悪い。

「このままではまたイゼルローン攻略論が出るだろうな」
「一度、四人で集まるか」
「四人か、五人でないところが痛いな」

ホアンが顔を顰めている。そのとおりだ、あの若造は生意気で人を人とも思わないなんとも忌々しい若造だが嫌になるほど頼りにはなる。シトレはヴァレンシュタインが傍に居ると負ける気がしないと言っていたがその気持ちが良く分かる。

なんであの男があと三人居ないんだ? あと三人いれば私とホアンとトリューニヒトの所に一人ずつ置けるのだ。そうすればホアンは抜け毛の心配をせずに済むし私だって血圧の心配をせずに済む。トリューニヒトだって白髪が増えずに済むだろう。シトレだけが楽をしている。後で文句の一つも言ってやらねばなるまい……。


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