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終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?赤き英雄
この世界が終わる前に
この世界が終わる前にA
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「気のきいたことって、例えば?」
シチューの中にごろりと入った芋《いも》を一口サイズに潰《つぶ》しながら、父は首をかしげる。
「『この戦争が終わったら、俺、結婚《けっこんするんだ》とか』」
「……いや。それ、あんま縁起《えんぎ》のいい言葉じゃねーぞ」
自分がまだ正規勇者《リーガル・ブレイブ》に憧れるだけの小さな少年だったころ、彼らが大活躍する 創作物語《フィクション》を好んで読んでいたことがある。
そのころの記憶によれば、いま娘が挙《あ》げたような言葉は、発言者が非業の死を遂《と》げる前降りとして多用されているものだったはずだ。
そしてもちろん、自分は死にたくない。
だからもちろん、自分の死のお膳立《ぜんだ》てなど、したくはない。
「わかってるよぅ。おとーさんが養育院に置いてった本、今はちびちゃんたちが読んでるから。字とかを教えているうちに、私も筋は覚えちゃった」
「理解した上で言ってるほうがタチ悪いじゃねーか……?」
ふうふうと息をかけて少しさましてから、シチューのひとさじを口に運ぶ。
うまい。そして懐《なつ》かしい。
大げさなくらいに香辛料《こうしんりょう》が効いている。腹ぺこの子供たちの舌に合わせて作られるこれは、帝都のお上品な店などでは、どうしても味わうことのできないものだ。
「それもわかってるんだけど、納得《なっとく》できなくて」
とんとん、と娘は指先でテーブルを軽くたたく。
「今夜のおとーさんたちみたいに『心残りをなくす』って、いつ死んでもいいっていう準備をするってことじゃない?
それが、ちょっと気に入らない。
私は戦いのことなんて全然知らないけどさ。それでも、本当につらい場所では、全然死ぬ準備できてない人の方が生き残るんじゃないかって思ってる。
何が何でも生きて帰るんだ、俺には帰らないといけない理由があるんだぁ、って」
唇《くちびる》を軽くとがらせ、娘は続ける。
「お話の中のことならさ、そういう人が死んだほうがドラマティックになって話が盛り上がるから、優先的に殺しちゃう……その理屈《りくつ》みたいなものわかるんだ。生きていてほしい人が死んじゃうほうが、絶対に悲しいもの。
でも、そんな神さまの勝手な理屈で殺される側は、たまったものじゃないよね」
よく見ると、その指が、小さく震《ふる》えている。
娘は気が強い。気が弱っているときにも、素直《すなお》にそれを表に出せないくらいには。
不機嫌《ふきげん》のふりをして。文句をつけているかのように装《よそ》って。そうしながらでなければ泣
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