溝-グレイヴ-
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意識がはっきりしていくうちに、鳥の鳴き声が聞こえる。
夢を見てたのだろうか。それにしても、なんだか体の疲れが未だに抜け切れていない。ずっと寝ていたいのに、さっきまで一日分動いていたかのようだ。夢の内容も、どんなものだったのかすっかり忘れてしまった。
傍らには水の音も聞こえる。視線を傾けると、小さな水桶からタオルを絞っている白い手が見えた。
「…誰か、いるのか…」
「ッ!」
シュウがふと口に出した声に反応して、手の主が手を止めて、驚いたようにこちらを見て硬直した。
「…よかった、目が覚めたのね」
久しぶりに聞いた声だ。顔を上げると、同じく久しぶりに見た顔がそこにあった。
「…ティファ、ニア…か」
彼女を見たのはアルビオンのロサイス港以来だった。しかし、目覚めたばかりのシュウは一つ気がかりに思ったことがあった。
「…俺は…確か…」
そうだ、メフィストと戦った後、その変身者でもあるメンヌヴィルに、コルベールが過去の因縁への引導を渡したところで、自分は戦いのダメージで意識を手放した。何度目だろうか、あんな形でぶっ倒れるのは。コルベールたち学院にいる人たちが無事であればいいのだが…
「ッ!そうだ、学院は!?」
学院のことを思い出して、シュウは、意識を手放す直前までメフィストの脅威にさらされていた魔法学院のことを思い出し、思わず立ち上がる。テファはそんな彼を落ち着かせようと、近づいて言葉をかけた。
「落ちついて!大丈夫、学院は無事よ。ここ、学院の空き部屋なの」
シュウはそういわれ、ちょうど窓から学院の外観を見る。確かに学院は襲撃の傷跡こそあるが、資材が校庭内に集められ、修繕作業のために人が少し多く行き来している。
「シュウが闇の巨人と戦ってすぐ、お城に知らせが届いたの。私やサイトたちもそれでここに来たんだ。今、お城の人たちと学院の人たちが一緒に校舎を直してるの」
「…無事なんだな?学院の人たちは」
「ええ…全員、じゃないそうだけど」
「じゃあ、出たんだな。犠牲者が」
「……」
テファは黙って頷いた。少しの間二人の間に沈黙が漂った。すると、シュウはテファを振り返らないまま、窓の外の景色を眺めながらテファに尋ねた。
「村の…みんなは?無事か?」
「…ええ。あなたとアスカさんが、あの時頑張ってくれたから。今は街の修道院にいるわ」
ウエストウッド村のみんなも無事のようだ。元々戦災孤児たちの集りでもあった。突然村を、自分やテファを狙うシェフィールドとかいう女の放った怪獣のせいで村を破壊されてしまい、子供たちは特に怖い思いをしたに違いない。…怖い思いをした原因は、俺にもあるだろう。ムカデンダーとやらを殺したとき、そしてあの男と戦っていたときの自分は、思えば殺意をつみ隠すことなく振りまいていた。自分でも恐ろしいとさえ思えるくらいに。
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