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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十九話 波紋
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のです。先帝、いえ先々帝フリードリヒ四世には兄と弟が一人ずついました。リヒャルト皇太子、クレメンツ大公です。この二人は皇帝の座を巡って激しく争ったのですが、結局は両者共倒れといった形で決着がついた。皇帝の座に就いたのは周囲からは凡庸と見られ誰からも相手にされなかったフリードリヒ四世でした」
『なるほど、確かにあの当時、帝国はざわついていたな』
シトレが思い出したといったように頷いている。

「クロプシュトック侯はクレメンツ大公の支持者だったのです。そして凡庸と言われたフリードリヒ四世を散々愚弄した。そのためフリードリヒ四世の即位後は三十年にわたって冷遇されました……。まあそれでも命が有っただけましでしょう。あの後継者争いでは二百名以上の廷臣が処刑されましたから」

後継者争いで二百名以上が死んだ。帝国では有りがちな出来事だが同盟では有りえない出来事だ。チュン参謀長も何とも言えない様な表情をしている。

『そうすると今回の事件は恨みか、しかし三十年も前の事を今になってというのは解せんな』
そうじゃない、クロプシュトック侯は三十年前の事件の恨みを今晴らそうとしたわけじゃない。彼に有ったのは絶望だろう。

もしフリードリヒ四世の性格が執拗で恨みを忘れないといった様なものだったらクロプシュトック侯は一族皆殺しになっていてもおかしくなかった。彼が冷遇はされても無事だったのはフリードリヒ四世が寛容だったから、或いは無関心だったからだ。その事はクロプシュトック侯も分かっていただろう。軽蔑はしていたかもしれないがその点に関しては感謝もしていたはずだ。

「貴族にとって最も大事なことは家を守る事、存続させることです。反逆を起こせばその家を潰されます。三十年干されたからといってそんな事で反逆を起こしたりはしません」
まともな貴族ならそうだ。まともじゃない貴族だけがトチ狂って反逆を起こす。反逆を起こされた方も戸惑うだろう。“え、何で反逆するの? 家が潰れちゃうけど良いの?”

『では、他に理由が有るというのかね』
「反逆を起こしたという事は家を潰しても良いという覚悟が出来た、或いは家を存続させる必要が無くなったという事です」

俺の言葉にシトレは考え込んでいる。答えたのはしばらくしてからだった。
『後継者を失ったか……』
「おそらく。クロプシュトック侯には軍人になった息子が居たはずです。前回の戦いでその息子を失ったのでしょう」
『……』

「クロプシュトック侯はフリードリヒ四世を侮蔑していました。リヒテンラーデ侯はそのフリードリヒ四世を守るためにカストロプ公を利用し結果として私が同盟に亡命した。そしてあの殲滅戦が起きた……」

『息子をあの戦いで失ったとしたら許せなかっただろうな』
俺の言葉にシトレが大きく頷いた。しんみりとし
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