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霊群の杜
輪入道 後編
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もありがたく思え。
「お子さんは残念なことになりましたねぇ」
つい言葉のチョイスにも、語気にも険が混じった。事情を知らない奴が聞いたら、俺は相当厭な奴と思われるだろう。
「青島くん…?」
不穏な空気を感じ取ったのか、静流さんが身を寄せて来た。花のようなコロンの香りが、尖った気持ちを少しだけ和らげた。
落ち着け俺。こいつを社会的に裁く手段は今のところはないのだ。
「えぇ…困ったもので。今、総力を挙げて捜索中なんだけどね」
眉を八の字にして、心底心配そうに首を傾げる。
「メンタル強いねぇ、変態センセイは」
奉が感心したように目を見開き、ほうと小さく息をついた。…お前もなに親しげに話してんだ。
「だけどアレ、もう駄目だと思うよ」
「ふぅん…」
悲しんでいるのか、途方に暮れているのか、感情が見えない困り顔で医師が相槌を打つ。…短い沈黙の後、奉が続けた。
「一番奥にいた奇形の子…あれ、山の神の眷属だねぇ」
「…………」
「徹底的に、気配が消えているんだよねぇ。どう探しても見つからない。あれはもう、余程の大物が匿っているね」
「……大物?」
「例えば山の神…あの子の父親なんてのはどうだ」
「……そう。可哀想に」
悄然と肩を落として、小さく息を吐く。…心底気持ち悪い男だ。
「お母さんから強引に引き離されて、皆どうしているのだろうね。きっと泣いているね」
「本心から云っているのが恐ろしいな、この変態センセイは」
つい、思った事を口走ってしまった。うわっしまった、と軽く歯を食いしばり、正面に座っている医師をチラリと見る。
「ふぅん…ねぇ、君たちが時折云う『変態センセイ』というのは、僕の仇名…なのかい?」
「………いや」
「嬉しいなぁ」
―――は?
変態センセイと呼ばれて嬉しいだと?おい待て、ちょっと業が深すぎてついていけない。
俺は思わず顔を上げて医師を凝視してしまった。


奴は、目を輝かせて俺の方に身を乗り出して来ていた。


「うっわ何?…気持ち悪っ」
さっきから、思ったことがポンポン口から出てくる。常識人の俺としたことが。これだけ邪険にしているのに、医師は尚も嬉しそうに距離を縮めてくる。
「僕、ちょっと友達とか出来にくいタイプみたいで、仇名がついたことってないんだよ」
……普通、妊婦の死体を地下室に溜めこむような変質者に友達は出来ない。
「僕の生涯、初めての友達かもしれない」
「ちょっ…やめてもらえますか」
「LINE、交換しようか」
「何故なのでしょうか俺はあなたに姪を殺されかけています」
「うん♪なら僕の甥を殺していいよ。これでおあいこだよね?」
「何云ってんのか分からないし、それ俺が犯罪者として一生を棒に振るだけです」
思わず敬語で心理的防御壁を作るが、変態センセイは一切気に
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