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霊群の杜
輪入道 後編
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て近寄らなくなるという。その理由はよく分かっていないが、孔子の逸話に似たような話が残っている。
孔子の高弟である曾子は、≪勝母の里≫という名の土地に、母に勝つという字面を嫌って近寄らなかったという。それは曾子の頑ななまでの孝の心を示す逸話である。
それが曾子の成れの果てである…とまで極端なことを云うつもりはないが、この妖は、儒教に端を発する何かであることは確かなのであろう。
「つまり…何というのかねぇ。儒教の概念がおかしな具合に凝り固まり、妖の姿を借りたようなものなのかねぇ…」
「お前ですら、そんな曖昧にしか捉えてないのか」
「曖昧だが、在るには在る。そして儒教亜流のいかがわしい拝み屋が、儒教の祭礼の形式を、教義部分を完全無視して利用したんだろうねぇ。だが、そいつは致命的な失敗をやらかしたんだよ」
「失敗?思う通りに働いてくれなかったことか?」
「あんなふざけたナリで意外にも、こいつは非常に潔癖で、人間的な常識を持つ妖なんだよ」
母子殺し隠ぺいの片棒を担がされたことを理解した輪入道は、どう感じただろう。何しろ儒教的概念の塊だ。≪勝母の里≫と書かれただけで近寄れなくなるような潔癖な妖なのである。…その憤怒は想像に難くない。
「……それはそれは、屈辱に怒り狂っただろうねぇ。変態センセイが目にした輪入道の姿は、お前の姉貴が見たそれよりも数段恐ろしいものだったろうよ。その怒りの矛先が拝み屋に向かったのやら、変態センセイに向かったのやら…俺は輪入道じゃないから知らんけどねぇ。…結貴よ、お前ならどっちに向ける?」
「どっちもだよ決まってんだろ、人さらいの相談に乗る拝み屋も、変態センセイも。ただ拝み屋の方は拳骨三発、変態センセイは晒し首だ。量刑的にはな」
「じゃ、輪入道もそうだろうねぇ」
「適当だな本当に」
「そうでもねぇよ。…あれは人間が作り出した教義が凝り固まった妖だ。俺よりお前の方が、より感覚が近いんだよ」
きじとらさんが剥いてくれたみかんを頬張りながら、奉はにやりと笑った。
「―――だから、変態センセイはろくな死に方しねぇよ」



それから一月もしない位の土曜日。
俺達と『彼』は、意外な所で鉢合わせることになる。


期末試験に向けて過去問を掻き集め、嫌がる奉をいつものように大学に引きずり出し、ひと段落ついたところで偶然行きあった静流さんと学食で遅めの昼食を摂っていた時のこと。
奉が、ため息と共にいつもの『静流さんに関する愚痴』を吐き出した。
「全く…試験直前に見ず知らずのパーリーピーポーに参考書ばりにキレイに真面目にとってた授業のノートをノリで奪われた上に『友達の友達の友達の友達の友達』にまで回されて現在地すら不明とは…」
「…友達の友達の友達の友達、です…」
「馬鹿めが。そろそろ友達の友達の友達の友達の友
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