第一章 天下統一編
第十九話 同士
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韮山城内に詰める北条兵は俺を警戒していないようだしな。この三十日間、俺はただ家臣に命じて、二日置きで夜間に大手門に向け鉄砲を打ち込ませていただけだ。
大手門を攻める訳でも無くただ鉄砲を撃ち込ませるだけ。
城内を探る藤林正保と柳生宗矩の報告によると北条兵の俺への評判はすこぶる悪い。俺は、夜間に鉄砲を撃ち込むだけで何もしないことから、「五月蠅い奴」と呼ばれているらしい。城を攻めはじめて七日目以降、俺が夜間に鉄砲を撃ち込んでいると北条兵が、大手門を出て、俺の軍に反撃してくるようになった。俺は交戦するつもりが無いから直ぐ撤退した。それで北条兵の俺の評価は「五月蠅い奴」に加え「口先ばかりの臆病者」が追加された。
北条兵は俺が奇襲する機会を窺っていると夢にも思っていないに違いない。最近は北条兵も俺の軍に反撃してくることは無くなった。反撃しても直ぐ逃げることが理由だろう。
俺の計画としてはまずまずだろう。
だが気になっていることがあった。俺はつい溜め息を吐いた。
北条兵が俺を嘲ることは全く気にしていない。
だが、北条兵の俺への評価は味方である豊臣軍にも蔓延しているということだ。福島正則達が俺のことを心配している理由にこのこともあると思う。そして、俺の家臣達の中に鬱屈した不満を抱えている者達がいることを肌に感じている。俺の計画を内々に説明している者達が不満を抱いている者達をよく抑えてくれていて助かっている。
もうすぐ苦労をかけた者達の苦労も報われるはずだ。
曽根昌世の助言を聞き入れておいて正解だった。助言を無視していたら、今頃は俺の軍が崩壊していたかもしれない。
それよりさっきから息が苦しい感じがする。どうしたんだろう。
俺は深呼吸した。だが、深呼吸しても改善しない。やはり息苦しい。
俺は自分の胸に手を当てた。心臓の鼓動が速い。
頭では大丈夫と思っても身体は正直だな。不安は隠せない。
殺し合いの真っ只中に向かうことになるんだから仕方ない。
今直ぐでも、この場から逃げたい気持ちはある。
だが、俺に逃げる場所なんてない。
ここで踏ん張り手柄を上げなければ、この先の俺の未来はない。力が正義の時代において力が無いということは不幸だ。俺の前世の世界なら命を賭けなくてもそこそこ頑張れば命の危険に晒されることは無かった。この世界は違う。命の価値が紙切れと一緒だ。時の為政者の胸先三寸で簡単に死ぬことになる。
だから、俺は力を手に入れるしかない。北条征伐後は関東に所領を与えられ大名としてひっそり籠もり、徳川家康と良好な関係を築いて安穏な殿様生活を満喫したい。家臣達にも十分の俸禄を与えてやりたい。石田三成には悪いが関ヶ原の戦いで東軍側に立ち勝ち組として生き残りたい。だから、俺はそこそこ出世できれば問題ない。
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