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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十八話 流血の幕開け
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帝国暦 486年 8月 1日 オーディン ブラウンシュバイク公爵邸
オットー・フォン・ブラウンシュバイク
リッテンハイム侯との話は終わった。侯は考えさせて欲しいと言って結論を出さなかったが感触は悪くなかった。まだ時間は有る、焦る事は無い。おそらくこちらに味方するだろう、間違ってもリヒテンラーデ侯に協力することは無いのだ。
部屋を出て大広間に向かおうとした時だった、突然大きな音と衝撃が走った。爆発だ! テロか? 始まったというのか、平民達の不満が爆発したのか……。
「公!」
リッテンハイム侯の顔が歪んでいる。そして声は掠れていた。まさか、わしが仕掛けたとでも思っているのか。
「わしではないぞ、リッテンハイム侯」
「分かっている、始まった」
同じ事を考えたか……。
早足で大広間に急ぐ。あの音と衝撃だ、爆発は決して小さくは無い。一体どれだけの惨事になっているか、そして陛下とリヒテンラーデ侯は無事なのか、嫌な想像だけが脳裏に浮かぶ。大広間に近づくにつれ焦げ付く様な臭いと煙が漂ってきた。
大広間は酷い有様だった。瓦礫と調度品の残骸、そして人間の死体……。五体満足な死体は少なかろう、ところどころに腕や足、首が落ちている。そして時折聞こえる呻き声……。
「これは、酷いな」
嫌悪、それとも恐怖だろうか、リッテンハイム侯の声は震えていた。
「ブラウンシュバイク公」
名を呼ばれて視線を向けるとシュトライトとフェルナーだった。二人とも酷い有様だ、黒の軍服が埃で白っぽく汚れている。両者とも頭から出血しているし、フェルナーは右腕を三角巾で吊っている。だが無事なようだ、何よりだ。
「シュトライト、フェルナー、無事だったか」
アンスバッハはどうしたと聞きたかった。だが聞くのが怖かった。躊躇っているとシュトライトが蒼白な表情で話しかけてきた。
「申し訳ありません、陛下が」
「……陛下が」
「お亡くなりになられました」
リッテンハイム侯と顔を見合わせた。侯の顔は引き攣っている。おそらくわしも同様だろう。
ブスブスとくすぶる音のする中、重い沈黙が落ちた。瓦礫と死体に満ちた大広間でわしもリッテンハイム侯も無言で立ち尽くしている。エルウィン・ヨーゼフ二世が死んだ……。次の皇帝はエリザベートかサビーネだ。こればかりは避けようがない。
クーデター計画は潰えた、あれはリヒテンラーデ侯とエルウィン・ヨーゼフが健在である事が前提だった。クーデターを起こし貴族達を抑えリヒテンラーデ侯を失脚させる。当然だがエルウィン・ヨーゼフは廃立する。そうすることで平民達の支持を得る、政権の安定化を図るつもりだったが無駄になった……。
このまま何の見通しも策もなく娘を女帝の座に就けるのか……。次に瓦礫の中で横たわるのは……
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