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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十八話 流血の幕開け
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れぬ……」

リッテンハイム侯の声が震えを帯びている。確かに言われてみれば思い当たる節は有る。イゼルローン要塞が反乱軍の手に渡っていれば貴族達とて強気に出られたか……。反乱軍が攻め寄せればそれに同調して平民達が蜂起しかねないのだ。妥協する可能性は有った……。しかし、それでも、あの要塞を取らずにいられるものなのか……。

「奴から眼を離すな。あれは単なる戦上手では無い、この帝国の弱点を知り尽くした男だ。恐るべき男を敵にしてしまった。まさかあのような男が居るとは思わなんだ……」
「……」

「私が死ねば平民達は少しの間は大人しくなろう。その間に覚悟を決める事だ。亡命してもよいぞ、命が惜しいならな……」


リヒテンラーデ侯が死んだのはそれから間もなくのことだった。大勢の人間が大広間を片付けている。少しずつ部屋は奇麗になっていく。リヒテンラーデ侯の遺体も片付けられた。
「どうする、ブラウンシュバイク公」
「逃げるか、踏み止まって戦うかだが……」

リッテンハイム侯がわしの顔をじっと見た。
「戦うようだな」
「今更逃げる事も出来まい……。侯はどうする」

わしの問いかけに侯は面白くもなさそうに笑った。
「公が逃げぬのだ、私も逃げられまい。これまで何かと張り合ってきたのだからな」
「それは、つまらぬ意地の張り合いであったな」
「全くだ」

リッテンハイム侯が笑う、わしも笑った。死臭と血臭の漂う部屋で二人だけが笑っている。どうやら我らの未来は血塗られた物になりそうだ。貴族の血か、平民の血か、我らの血か……。或いはヴァレンシュタイン、卿の血か……。何者の血であれ流れる血の量は決して少なくは有るまい、今から血の匂いに慣れておく必要が有りそうだ……。






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