歌声
[1/9]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「よーし、じゃあ休憩!」
「はー!」
所沢にある桐ヶ谷家の道場にて、直葉の快活な声が響き渡るとともに、約二名ほどが板張りの床に倒れこんだ。用意してあったタオルと冷えた麦茶を渡すと、二人は貪るようにそれらに向かっていくのを横目に、俺も手で自分を扇ぎながらタオルで汗を拭いていく。
「はー……生き返るぅ……」
「スグ、ちょっとキツすぎやしないか……」
「そんなことありません。お兄ちゃんがなまりすぎなの!」
ゴールデンウィークも終わりに近いこの頃、暑さもますます高まっているなかでは、慣れていない人間には拷問に近いだろう。というよりも指導する直葉の虫の居所が悪いのか、明らかに普段の稽古よりも厳しい内容だというのもあるが。
「休み明けには堪えるよぉ……」
「……キリト、直葉に何かしたか?」
元々はゴールデンウィークで弛みきったキリトを鍛え直す――という名目で開かれたこの稽古に、助手としてちょうど直葉に用もあった俺が呼ばれて。ついでに今回の事件でレッスンを休んでしまって、体力をつけ直したいというレインも加わった形となるが、そもそもこの稽古が始まった原因が問題だ。つまり、恐らくは今回の原因であろうキリトに小声で問いかけると、キリトも汗を拭きながら困ったように笑っていて。
「いや……昨日、ちょっと帰りが朝になっちゃって。それから……」
「それ……朝帰――」
「やめろ!」
キリトから明かされる衝撃的な真実に、ついつい口が大きく開いてしまうが、それはすんでのところでキリトに止められる。不審げにこちらを見てくる女性二人に咳払いしながら、こっちのカップルは進んでるな、と他人事のように思うことで現実逃避を試みる。
「まあ……頑張ってくれ」
「……」
何にせよ原因はハッキリはしたが、謝って済む問題でもないだろう。まったくもって役に立たない激励を言葉にしながら、とにかく俺にはどうしようもないとばかりに匙を投げた。ついでに心中に浮かんできた、リズもそういうのに興味があるのかな、などという雑念はもっと遠くに投げ捨てて。
「ねぇ、何の話してたの?」
「まあ……ちょっと、な」
「ふーん……それにしても、稽古ってこんなにキツいんだね。わたしもダンスとかで結構は体力に自信あったんだけど、もう身体中が痛いよ」
普段と使ってる筋肉が違うのかな――などと、こちらが話を逸らそうとしてるのを察して、違う話を振ってくれるレインに心中で感謝しながら。そんな彼女の方を見てみれば、肩辺りまで伸びたセミロングな亜麻色の髪の毛をゴムで結んでいて、胴着は直葉の予備を借りている見慣れぬ姿で。するとこちらの視線を女性らしく感じ取ったのか、途端にニヤリと笑ってこちらを見る。
「ん? レインちゃん
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ