歌声
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の開催時間とともに端末を握り締めると、自分もどこか久々にこのゲームをプレイしたかのように感じられる……それは多分、余計なことを考えないで、彼女とともに遊べるからだろう。広場に君臨する巨大なスライムに顔をしかめながらも、リズとともにゲーム開始を告げる言葉を紡いでいた。
『オーディナル・スケール、起動!』
――そして、歌声が響き渡る。
「…………」
……後沢鋭二は、もはや何の意味もなくなった《オーグマー》を装着しながら、その家の前に立っていた。今回の件でめっきり帰らなかった自宅ではなく、標札には『重村』と刻まれていたが、今やその家には誰がいるわけでもなく。ただ取り壊しが予定されていると、そう決まっていることを示す看板が立っているだけで。
そんな看板を一瞥した後に、鋭二は数年ぶりにその敷地内へと入っていく。とはいえ、どうしてこの家に来ていたのか、この家で何をしていたのかは、どうしても思い出せなかったが。
……いや、重村悠那という少女がいたということは、鋭二も辛うじて覚えている。その悠那という少女を生き返らせるために、自分がどんなことでもする覚悟を持っていたことも、それが自分の全てだったということも。
しかし、自分がどうしてそんなことをしようとしていたのか、悠那という少女がどんな人物だったのか。それらを思い出そうとしても、霧がかかったかのようにそれらは消えてしまう。長い夢から醒めてしまった時のように、自分のことだろうにまるで他人事だとしか思えずにいた。
自らの全てを投げうってまでやり遂げようとしたことが、他人事としか感じられなくなってしまった――そんな鋭二の胸中に残ったのは、誰とも知らぬ少女の歌声だった。
「あ……」
その歌声に導かれるようにこの家に赴いた鋭二は、試しに引いてみた扉に鍵がついていないことに驚きながら、自分でも理由が分からないまま家の中に入っていく。もちろん中の景色は鋭二の記憶とはまったく違い、壁紙や家具などは全て撤去されていて。鉄筋コンクリートが剥き出しとなっている姿は、磨耗した鋭二の記憶の中にある、暖かみのある家とは似ても似つかずに。
そのまま、鋭二は玄関近くにある階段へと昇っていく。その部屋に行った記憶などもう鋭二には残ってすらいないが、身体が覚えているとばかりに一直線に向かっていって。また扉のノブを引いたものの、その部屋の主だった少女などいるはずもなく――
『あ! エイジ、おっそーい!』
「……え?」
――ただし、もう一人の少女がそこには立っていた。機嫌が悪いぞ、と示すように腰に手を当てて、眉間にシワを寄せながら鋭二の方を睨み付けていた。
「ユ、ユナ? だって君は……」
『ふんだ。エイジが迎えに来るのが遅いから、こっちから来ちゃ
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