巻ノ九十五 天下の傾きその四
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「最早な」
「幕府の中に入ったからか」
「我等は今は徳川家の下にある」
「そういうことじゃな」
「その中で生きるからな」
「だからか」
「そうじゃ、真田殿はわしも殿も嫌いではないが」
個人としての感情ではというのだ。
「そうであるがな」
「それでもじゃな」
「共には戦えぬ」
「幕府の下で戦うか」
「そうする、しかし御主はどうする」
兼続は慶次の目を見て彼に問うた。
「そこでまた傾くか」
「ははは、真田殿の様にか」
「そうするか」
「いや、それはな」
慶次は兼続のその問いにも笑って返した。
「もうわしもな」
「それはか」
「ないわ」
こう言うのだった。
「もうその時まで生きておるか」
「わからぬからか」
「そのこともあるし生きておってもそこまで傾けるか」
「いや、御主ならな」
笑ってだ、兼続はその慶次の言葉に応えた。
「そこでそうすると思うが」
「傾くか」
「そうな」
「どうだろうかのう」
「その時はわしも殿も何も言わぬ」
「行ってもよいか」
「好きにせよ」
これが兼続の返事だった。
「その時御主がしたい様にな」
「それではそうしてよいか」
「遠慮は無用じゃ」
兼続はこうも言った。
「是非な」
「それでは」
「有無、好きな様にせよ」
「それではな」
「むしろ御主は最後まで傾くことじゃ」
慶次自身にだ、兼続は告げた。
「天下一の傾奇者としてな」
「最後の最後まで傾いてか」
「生きることじゃ」
「思うがままにか」
「御主らしくな」
「では若しかするとな」
遠くを見る目で微笑んでだ、慶次は兼続に述べた。
「わしは真田殿と轡を並べるやもな」
「そうしたいならそうせよ」
「わしが思うままにか」
「うむ、そうせよ」
是非にというのだった、兼続も。
「そしてな」
「そのうえで、ですな」
「天下の傾奇者として最後まで傾いてな」
「雲の様にじゃな」
「そうして生きるのじゃ」
まさに死ぬ時までというのだ。
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