第二章
[8]前話
「幾ら何でも」
「いいから、じゃあ食べに行こうね」
「それじゃあ」
彼の押しに負けて頷いた、そのうえで向かった店はというと。
道頓堀の巨大な動く蟹が看板の店だった、その店の前に来て麻里子は思わずその店の名前を言った。
「かに道楽じゃない」
「どうかな」
「だから私達学生なのに」
高いだろうにというのだ。
「ちょっと」
「だからね」
「お金のことはなのね」
「気にしなくていいから」
笑って麻里子に言うのだった。
「本当に」
「じゃあ」
「一緒に食べに行こう」
「わかったわ」
こうしてだ、麻里子は彼と共に店の中に入ってだ。そのうえで二人で鍋を中心とした蟹料理を食べたが。
最後の雑炊の時にだ、麻里子は彼の碗に雑炊を入れつつ行った。
「ねえ、今日はね」
「今日は?」
「幾ら何でもここまでっていうのがね」
「麻里子ちゃんの気持ちだね」
「そう思ってるけれど」
「だから僕の気持ちはね」
それはというのだ。
「本当にね」
「ここまでなのね」
「そう思ってだから」
「そこまで私のこと想ってくれてるのね」
「嫌かな」
「嫌な筈ないじゃない」
微笑んでだ、麻里子は彼に答えた。
「ここまでしてもらって」
「そう、それなら嬉しいよ」
「じゃあ私もアルバイト頑張って」
そうしてとだ、麻里子は彼にこうも言った。
「貴方の次のお誕生日にはね」
「こうして?」
「プレゼントさせてもらうわ」
麻里子もそうするというのだ。
「是非ね」
「それはいいよ」
「よくないわよ、こうしたことはね」
「お互い様?」
「そうよ、貴方が蟹できてくれたから」
それでというのだ。
「私は河豚にしようかしら」
「河豚なんだ」
「今道頓堀にいるでしょ」
かに道楽があるそこにだ。
「だからね」
「づぼら屋だね」
「そこでいいかしら」
「いいね、じゃあ今度はね」
「づぼら屋に行きましょう」
「僕の誕生日には」
「そうしましょう」
彼が入れてくれる雑炊を受け取りながら応えた。
「是非ね」
「それじゃあね」
「その時は」
二人で最期の雑炊を食べながら話した、麻里子は彼に今もそこまでしてくれなくてもと思った、だがそれでいてだった。
暖かさを感じた、その暖かさは鍋の最後の雑炊以上だった。それこそが彼の最高のプレゼントであることがここで分かって自然と笑顔になった。
高価なプレゼント 完
2017・6・26
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