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真田十勇士
巻ノ九十四 前田慶次その十四

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「それがしは」
「それもよい飲み方じゃな」
「そう言って頂けますか」
「実にな、ではな」
「はい、こうしてですな」
「共に飲もうぞ」
 こう言ってだ、慶次は己の杯の中の酒を飲んでいった。大杯は見事な漆塗りで慶次の傾きが出ていた。
「今宵はな」
「そしてですな」
「明日も修行じゃ」
 伊佐にというのだ。
「思う存分な」
「はい、お願いします」
 確かな声でだ、伊佐は慶次に応えた。
「拙僧が術を全て身に着けるその時まで」
「是非な、しかし」
「しかし?」
「この調子でいけばすぐじゃ」
 慶次が伊佐に自身の術を全て授けて伊佐が身に着けるのはというのだ。
「御主はわしの術を全て備えるわ」
「左様ですか」
「元からかなり強くしかも覚えがよい」
 だからだというのだ。
「もうすぐな」
「そうなりですか」
「そうじゃ、全て備える様になる」
「そうですか」
「そして術を備えればじゃな」
「拙僧もです」
 まさにとだ、伊佐は慶次に確かな声で答えた。
「殿と共にその術で」
「時が来ればじゃな」
「傾きます」
 微笑んで述べた。
「拙僧の気質で傾くもないでしょうが」
「いや、傾くのは気質ではない」
「生き様ですか」
「その幕府にもつかぬそれはな」
 そうした生き様がというのだ。
「天下の傾きじゃ、ではな」
「我等十勇士はですか」
「真田殿と共に傾くのじゃ」
「ではその様にして」
「生きて道を歩みのじゃ」
「そうさせて頂きます」
 伊佐の返事はあくまで礼儀正しく穏やかだ、しかしだった。そこには確かなものがあった。それこそが慶次が言う傾きであった。


巻ノ九十四   完


                   2017・2・8
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