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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十六話 苦悩
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ュターデンか。それとも……。

「あの時、ヴァレンシュタインを殺しておくべきだったと言ってな……」
「……」
やはりそれか……。あの時、イゼルローン要塞内であの男と対峙した時か。しかし、それは……。

「卿の言いたい事は分かっている」
口を開きかけた俺をグライフスが押しとどめた。
「あれは正しかったと私も思っている。あそこでヴァレンシュタインを殺していれば、それはそれで問題になっていただろう……。ヴァレンシュタインを返したのは正しかった、だが……、上手く行かぬものだ」
首を振ってグライフスは嘆いている。

確かに上手く行かない、返したばかりに七百万人が死んだのだ。殺すべきだと思った、だが殺すのは誤りだと思った。そして今、やはり殺すべきだったのかと迷っている。愚かな話だ、振り返っても戻れるはずが無いのに振り返っている。俺だけではあるまい、オフレッサーもリューネブルクも同じ想いを抱いているに違いない。だからオフレッサーの苦しみが俺には分かる。

苦しんでいるだろう、悩んでもいるだろう、責任も感じているに違いない。だがあの男の事だ、それを外には出すとも思えない。一人心の中にしまい動ぜぬ姿を見せているのだろう。だがその事がまた周囲の反発を生む……。不器用で誇り高い野蛮人……。

しばらくの間、お互い無言だった。前任者、ゼークトの私物は片付けたのだろう。部屋は殺風景と言って良いほどに片付いている。その事が余計に気持ちを落ち込ませた。

「ミューゼル中将、卿の艦隊だが状態はどうかね。大分訓練を積んだと聞いているが」
「練度は上がったと思います、しかし艦隊の状態は良好とは言えません」
「そうか、卿の艦隊もか……」
俺の答えにグライフスは顔を顰めて頷いた。“卿の艦隊もか”、彼自身自分の艦隊で思い当たる節が有るのだろう。

俺の率いる艦隊は確かに練度は上がった、しかし士気を戻すことは出来なかった、下がったままだ。普通、艦隊の練度が上がれば士気も上がる、それが上がらない。そして艦隊は既に四か月も訓練と称して行動中だ。兵達の間にはその事にも不満が募りつつある。このまま遠征するとなればその不満はさらに高まるだろう。爆発の臨界点は少しずつ迫っている。

グライフスの艦隊も似たような状況なのだろう。オーディンからいきなり最前線に送られた。帝国を守れと言われても何故守らなければならないのかが分からない。そんな状況では兵達の士気など上がるはずが無い。

「卿の艦隊はおそらく帝国では最精鋭と言って良いはずだ。その艦隊でさえ状態は良くない……。リヒテンラーデ侯も愚かな事をしてくれた」
グライフスの言葉に思わず頷きそうになった。余りにも切実な口調だったのだ。

「閣下、あまり滅多な事を申されましては……」
帝国政府は公式にはヴァレンシュ
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