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霊群の杜
輪入道 前編
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まったんだね。こわ〜い所に来ちゃったねぇ。ここにいるみんなは、病気でお別れしちゃうみんななんだよ?『れいあんしつ』っていうんだ。覚えておいてね、『れいあんしつ』」
―――なるほど、こっちが子供だから恐ろしい死体を見せて、それを『霊安室』と教え込むことで、記憶を混同させた上で手頃なトラウマを植え付けようとしているのだな。胸糞の悪くなるサディストだ。
こんな幼い子供相手に。
「俺が知ってる霊安室とは随分様子が違うようだが?」
医師の表情が、笑顔のまま固まった。
「こんなオシャレな霊安室があるか、幼女なめてんのかクソ野郎」
「幼女!?」
俺はすかさず鼻をほじると、一番奥の立派な水槽に鼻くそをなすりつけた。…勿論、水槽の母子に心の底で土下座しながらだ。
「んなっ!!」
医師が人の良さそうな顔を強張らせながら水槽に走り寄って、必死の形相で拭き始めた。
「ちょっ…何でこういう事するのかな!?」
「お供え…かな?小梅、手ぶらで来ちゃったしなぁ…」
「ごめんちょと意味が分からない!」
「そうかぁ…小梅もよく分かんない」
ふらっと水槽から離れ、俺は部屋を見渡した。…暗くてよく分からなかったが、明るい状態でじっくり見回してみるとこの部屋の作り自体は他の病室とそう変わらない。少し違うのは、掃除用具を入れるようなロッカーがあることだろうか。暇さえあれば『大事な家族』の部屋を掃除をしているのだろう。
俺はロッカーを開けてモップを取り出し、柄でカツンと手近な水槽を叩いた。再び、医師の顔が強張った。
「やめなさい!!ママに叱ってもらうよ!?」
医師が声を荒げる。…え?…叱ってもらう、と云ったか今。
こんなにも大勢の母子を標本にしておいて、誰にも裁かれずにやりたい放題のお前が。
「じゃあ、変態は警察に叱ってもらうってことでOKだな!?」
モップを水槽に叩きつけると、医師が短い悲鳴を上げる。
「サワ!?」
「お、サワさん失礼しましたのです」
おっといけない…つい地がでてしまった。俺はあえて無邪気に笑ってみせた。
「そーだ、センセイのお名前は!?」
「…君に教えるつもりはないよ」
「ならば死体と幼女がお好きなので…変態センセイとお呼びしましょう!」
「変態センセイ!?なに云い始めるの小梅ちゃん!?」
「…待って、変態センセイ!」
俺は敢えて神妙な顔で辺りを見渡した。
「…どうしたの、トイレ?」
「この水槽……」
「………」
「モップで叩くと、めっちゃいい音がする!」
「はぁ!!??」
「牙突っ!!」
モップを頭上で水平に構え、全力で突きを入れた。5歳児の全力なんで全然大したことないが。それでも、医師が声にも出せない悲鳴を上げた。
「ちょっ…本当に怒るよ!?ママにも怒ってもらうよ!!」


「……ママ達はもう、怒って
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